退職希望者は引き留めるな 「慰留」がもたらす3つの損失:働き方の見取り図(1/4 ページ)
退職の意思を会社に伝えたのに、人手不足を理由に退職届の受け取りを拒否されたケースなどが増えている。退職の意志が強い社員を無理に引き留めることは、会社にとって大きなデメリットを伴うと筆者は指摘する。
ここ数カ月横ばいではあるものの、1.3前後と高い水準を維持する有効求人倍率。多くの会社が採用難に悩む中、「辞めにくい雰囲気がある」「ものすごい引き留め工作を受けた」「退職すると負け犬なのか」など、退職したいのにさせてもらえない“退職難”に悩む人の声も聞かれます。
日本経済新聞は10月9日に「『退職できない』相談増」と題した記事で、個別労働紛争で自己都合退職トラブルが増加し、過去最高になったと報じました。
記事で紹介されている厚生労働省の「個別労働紛争解決制度の施行状況」には、自己都合退職に関する助言・指導の例として、退職意思を伝えたのに人手不足を理由に退職届の受け取りを拒否されたケースが掲載されています。
会社としては、せっかく育成した社員が抜けると痛い損失です。そのため、会社は退職者に良い顔をせず、裏切り者扱いすることも少なくありません。それは社員に対する思い入れの深さの裏返しなのかもしれませんが、会社のスタンスとして望ましいのでしょうか。
実は、退職の意志が強い社員を無理に引き留めることは、会社にとって大きなデメリットを伴います。反対に、無理な引き留めをせず、快く送り出すことで得られる、意外なメリットも存在します。詳しく見ていきましょう。
著者プロフィール:川上敬太郎(かわかみ・けいたろう)
ワークスタイル研究家。1973年三重県津市出身。愛知大学文学部卒業後、大手人材サービス企業の事業責任者を経て転職。業界専門誌『月刊人材ビジネス』営業推進部部長 兼 編集委員、広報・マーケティング・経営企画・人事部門等の役員・管理職、調査機関『しゅふJOB総合研究所』所長、厚生労働省委託事業検討会委員等を務める。雇用労働分野に20年以上携わり、仕事と家庭の両立を希望する“働く主婦・主夫層”の声のべ4万人以上を調査したレポートは200本を超える。NHK「あさイチ」他メディア出演多数。
現在は、『人材サービスの公益的発展を考える会』主宰、『ヒトラボ』編集長、しゅふJOB総研 研究顧問、すばる審査評価機構株式会社 非常勤監査役、JCAST会社ウォッチ解説者の他、執筆、講演、広報ブランディングアドバイザリー等の活動に従事。日本労務学会員。男女の双子を含む4児の父で兼業主夫。
かねて、会社は社員からの退職希望をネガティブに捉えてきました。退職者が出ると業務に穴があくため、他の社員にその分の業務負荷がかかったり、後任を採用するための労力やコストもかかったりします。特に人手不足が激しかったり、人数が少ない職場ほどダメージは大きく、ともすると退職希望者に対して威圧的になったり、過度な引き留めを行ったりしがちです。
しかし、本人の意に反して退職希望者を無理やり引き留めると、人員の頭数は維持できるかもしれませんが、実は多くのデメリットがあります。中でも大きなものを3点挙げます。
関連記事
- 「週休3日」の前に……「消えている有給」こそ問題視すべき理由
政府は6月に発表した骨太方針で「選択的週休3日制度の普及に取り組む」と発表した。週休3日制の導入を表明する企業も出てきている。しかし、週休3日制は、本当に望ましい休み方だと言えるのか。 - 台風でも出社……テレワークできない企業が抱える3大リスク
コロナ禍を経て一度は根付いたテレワークだが、出社回帰が急速に進んでいる。ワークスタイル研究家の川上敬太郎氏は、テレワーク環境を整備していない企業が陥る3つのリスクを指摘する。 - 年間の通勤時間は休日20日分に相当 テレワークが生んだ3つの課題
コロナ禍でテレワークが市民権を得たが、出社回帰の動きが鮮明になっている。オフィス出社か在宅か、はたまたハイブリッド型か――。最適解はどこにあるのか。 - ビッグモーター不正 忖度した「中間管理職」は加害者か被害者か?
会社が組織ぐるみで不正を行った場合、トップの意思決定者と不正を実行した社員との間に位置する中間管理職は、加害者か被害者のどちらになるのか――。上司に盲目的に忖度する中間管理職は、企業を滅ぼしかねない存在でもあると筆者は指摘する。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.