なぜJR東海は品川に「新幹線」の駅をつくったのか:開業20周年(3/4 ページ)
東海道新幹線の品川駅が、開業20周年を迎えた。これを機に、なぜJR東海が品川に東海道新幹線の駅をつくったのかを振り返ってみたい。
『国商』葛西敬之は何を考えていたか?
話は変わるが、話題になった書籍『国商 最後のフィクサー葛西敬之』(森功氏/講談社)を紹介しよう。JR東海の企業スタイルを確立し、名誉会長にまでなった葛西敬之氏の評伝だ。葛西氏は22年5月25日に亡くなった。
本書には、葛西氏が国鉄時代からJR東海の名誉会長になり、そして亡くなるまでの生涯がつづられている。政界と鉄道界を結び付ける「フィクサー」として動くなど、興味深い話も紹介されている。
葛西氏は東海道新幹線の競争力を高めるため、「ひかり」「こだま」しかなかったところに「のぞみ」を加え、速達性を向上した。同書によれば、品川駅開業は彼の悲願だった。ここに駅をつくることで、従来は飛行機に乗っていた人が新幹線に切り替えるのではないかと考えたという。品川駅開業で全列車を最高時速270キロにし、「のぞみ」中心のダイヤに切り替えた。
つまり、東京から大阪までの東海道エリアでの交通覇権を握るために、品川駅をつくったということだ。その経営戦略は間違っていなかった。このあたりも、同書で紹介されている。
品川駅には、新幹線のホームをつくる程度の用地しかなかった。しかし、東京圏でJR東海が力を持つために品川駅をつくったのではないか――。本書を読むと、このようなことが伝わってくる。
JR東海は当初、中部地方の在来線と東海道新幹線を担う会社としてつくられた。JR各社の中で中心となるのはJR東日本……このことが想定されていた背景もあった。
JR東日本に対抗するためには、JR東海が巨大都市・東京で影響力を持たなくてはならない。そのような戦略を葛西氏が立てたとしても、おかしくはないだろう。
品川駅の建設に合わせ、JR東海は駅直上に東京本社を設けることになった。このことで、名古屋の鉄道会社から、日本の中心的な鉄道会社になることを目指した。
品川に東海道新幹線の駅をつくること、そこに東京本社をつくること。結果、JR東海は日本の大動脈である東海道新幹線を担うのにふさわしい鉄道会社になる――。こうした構想を葛西氏は抱いていたのではないか。
品川駅開業をてこにして、JR東海の存在感、そして葛西氏の存在感が大きく高まったことは間違いない。そして2度も首相を務めた安倍晋三氏との関係があった。それゆえに葛西氏の評伝は『国商』と名付けられるようになった。
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