「つながらない権利」、どう確保する? 事例を紹介
ここまでつながらない権利の海外の動向、日本における「つながっている時間」の調査結果を見てきた。ここからは、業務時間外の業務連絡に対する企業のアプローチの事例を確認することで、職場単位で可能な工夫について考えてみよう。
図5に、企業の事例を示した。まず気付かされることは、電話やメールの対応から着手していることだ。禁止に加えて、メールの自動返信や、取引先への呼びかけといった追加的な施策もなされている点も特徴的だ。
※4:日本経済新聞「休日に業務連絡NG 「つながらない権利」日本では?」、NHK「『つながらない権利』知ってほしい」
一方、こうした業務時間外の連絡を禁止するアプローチが難しい場合もある。医療や介護の世界では、深夜早朝や土日・祝日など業務時間外の連絡・対応が発生し、何もしなければ生命にかかわりかねない。そのため、医療や介護業界では、「オンコール手当」の支給が珍しくない。また、社会的インフラとなっているサーバーなどの保守・運用に従事するエンジニアについても、オンコール手当が支給されることがある。
自社の従業員が業務時間外に対応することは、しばしば美談として語られる。頼りになるのは確かだろう。しかし、それが続けばバーンアウトにつながる可能性や、労務管理としても大きな問題を抱えることになる。
企業としては、図5のようなアプローチがあることを念頭に置きながら、業務時間外の連絡の禁止を目指すべきか、それとも連絡がつかない弊害の大きさから手当を支給することが現実的かなどの施策について検討することが求められる。
まとめ
本コラムでは、「第八回・テレワークに関する調査/就業時マスク調査」の結果を確認しながら、つながらない権利について考えてきた。
バーンアウトや法的リスクなど、自社従業員の業務時間外の業務連絡対応を見過ごし続けることは得策ではない。まず着手すべきは、自社の従業員のつながらない権利がどのくらい保障されているのか、言い換えれば「つながっている時間」がどのくらいかを把握することだろう。その上で、自社の制度設計を見直してみてはいかがだろうか。
今井 昭仁
London School of Economics and Political Science 修了後、日本学術振興会特別研究員、青山学院大学大学院国際マネジメント研究科助手を経て、2022年入社。これまでに会社の目的や経営者の報酬など、コーポレートガバナンスに関する論文を多数執筆。
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