テスラが直面する「分岐点」 自動車ビジネスの普遍的構造から読み解く:池田直渡「週刊モータージャーナル」(6/8 ページ)
米テスラは今、大きな分岐点に差し掛かっている。すでにメディアにもさまざまな悲観論があがり始めているが、それらはテスラの現状の表層をなぞっただけで、全く本質に届いていない。
高効率設備がもたらず損益分岐点の高止まり
問題はこの急拡大である。たくさんのクルマを効率よく作ろうと思えば、高効率設備が必要だ。ギガプレスもまさにその一つだが、問題はそれが先行投資であることだ。先払いしたものは後で事情が変わったからといって、なかったことにはできない。
工場の投資は少なく見て20年、場合によっては30年で償却する大型投資なのだが、それはつまり投資を決めた時点で向こう20年から30年のローンを背負うことと一緒である。大型設備投資は未来の行動への束縛になる。それは自動車生産業という設備投資ビジネスの不変のセオリーである。
テスラはこの先行投資をものすごい勢いで行った。すでにネバダ、ニューヨーク、テキサス、上海、ベルリンにギガファクトリーが建設されている。当然それら全てのローンは確定済みなので、工場を一定以上の稼働率で動かし続けないといけない。
例えばある100万台工場への投資が2000億円だったとすれば、これを20年で償却するには金利を考えなくても100億円を毎年返さなくてはならない。つまりこの工場の利益が100億円を切ったら、減価償却だけで赤字が確定してしまう。
減価償却費は固定費であって、何台生産しても変わらないので、製造台数を増やすほど、1台あたりの減価償却費負担を下げることができる。例えば当初計画の設備稼働率が85%、つまり生産台数85万台なら、1台あたりの負担額は12万円となる計算だ。
一方、標準で年産100万台のこの工場を土日も稼働させ、夜勤も動かして120%で稼働させれば120万台生産できることになる。120万台生産できれば、1台あたり負担は8万3000円に下がる。逆に70万台しか生産できなければ、1台あたり負担は14万3000円に上がる。
自動車工場のような大規模投資ビジネスにおいて、この生産台数を高く維持することが、利益率向上の重要なカラクリになっている。生産台数を増やすほど、減価償却費負担は減り利益が出やすくなる。一方で生産台数が減ると、この仕組みは逆回転する。減価償却費負担が増えて利益を圧迫するので、なんとかして台数を確保したくなるのだ。
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