「メルカリvs.タイミー」勃発 スキマバイト市場の“勝者”はどちらになるのか:古田拓也「今更聞けないお金とビジネス」(1/2 ページ)
メルカリが“スキマバイト”事業への参入を発表した。この知らせに「久しぶりにワクワクしてます」と応じたのは、市場のパイオニア的存在であるタイミーの小川嶺CEOである。タイミーが事業を開始してから5年余りが経過しているが、なぜ今、メルカリは市場に切り込もうとしたのだろうか。
久しぶりにワクワクしてます
こうX(旧Twitter)にポストしたのは、スポットワーク(短時間型のアルバイト)市場のパイオニア的存在であるタイミーの小川嶺CEOである。投稿では、どんな競合が参入しようが、圧倒的なスピード感でサービスを磨き込む姿勢を強調した。
彼がSNSでこう表明した90分ほど前、インターネットオークション事業を展開するメルカリは、単発・短時間の雇用契約による新しい働き方を提供するスポットワーク事業に参入するプレスリリースを発表した。その内容は、スキマ時間を活用して働ける求人プラットフォームとして「メルカリ ハロ」というサービスを2024年春に開始するというものだった。
タイミーが18年8月10日にスポットワークの求人サービスを開始してから5年余りが経過する。なぜ今、メルカリはスポットワーク市場に切り込もうとしたのだろうか。
メルカリに勝機はあるか?
メルカリ参入の鍵となる要素は、4月に解禁された「デジタル給与払い」にあるだろう。同社の決済サービスであるメルペイで、スポットワークの給与をデジタル払いでスムーズに受け取れる仕組みが整備されれば、自社の経済圏内でお金のやり取りが完結する。メルペイ経由で残高が決済されたり、フリマでの代金決済につなげられたりといった活動である。
実はメルカリは、19年9月の事業戦略発表会の時点で、メルペイを活用した給与・報酬のデジタル払いについて言及しており、タイミーがサービスを開始して1年後の時点ですでに参入の気配はあった。その後は業界団体とも連携して給与のデジタル払いについて政府とも調整を重ね、23年4月にようやく解禁にこぎつけたことでサービス開始に乗り出す用意が整ったと判断したと考えられる。
このような経緯を踏まえると、メルカリはスポットワーク市場に「今さら」参入したというよりも、「ようやく」参入できるようになったという言い方が適切なのかもしれない。確かに、ただ類似のサービスをリリースするだけでは先行事業者に勝てないリスクもあった。しかし、給与のデジタル払いと、デジタル払いされた給与をシームレスに使える環境は差別化要素としてタイミーなどの先行事業者に重大な挑戦を突きつけるものだとも考えられる。
また、メルカリといえば2000万人以上のユーザー基盤のうち半数以上にも上るユーザーが、本人確認書類を提出済みだ。SNS上ではメルカリ ハロについて、同社のフリマアプリにおける過度な値引き交渉や、詐欺的な商品の出品などで問題を起こすユーザーが目立つことから「そのような客層の人が来ても安心して任せられない」といった慎重なコメントも散見される。
しかし、少数のネガティブな経験が全体の印象をゆがめることはあるものの、実際には多くのユーザーが規則を守り、良好かつ丁寧な取引を行っているのが現状だ。フリマアプリでの出品実績が多いユーザーほど、高評価率が取引の成否を左右することを理解しているため、ときには一般企業のカスタマーセンターよりも丁寧な取引が行われたり、懇切丁寧な梱包が施されたりする例を筆者も幾度となく経験している。
そんなメルカリのユーザーを評価するシステムは、今回のハロでも導入されている。パートナー(事業者)とクルー(働き手)の間で評価し合う仕組みが整っており、評価が可視化される点は安心だ。仮に問題のあるユーザーが参入してきたとしても、評価制度が最低限の仕事の質を担保すると期待される。
通常、アルバイトを“バックれた”としてもよほどのことがない限り、その職場でのみ評価が下がるだけで済むはずだ。しかし、メルカリのようなプラットフォームでは評価が一望できるため、パートナーから村八分にされかねない。その反対に、卓越した働きぶりを見せれば受注率が上がるため、行動経済的学なインセンティブ環境でみても仕事の品質を担保することになりそうだ。
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