ディスカウント王者・オーケーの銀座進出が「勝ち確」と言える3つの理由:小売・流通アナリストの視点(3/4 ページ)
ディスカウントスーパーとして有名なオーケーが銀座にオープンした。実は、オーケーにとって銀座進出は「勝ち戦」ともいえる。それはなぜなのだろうか。
オーケー 銀座店の売り上げを試算してみた
このように、銀座のオーケーはうまくいきそうな気がするのだが、データで見るとどうなるのだろうか。
図1はオーケーの有価証券報告書から店舗当たりの収支を試算してみたものになる。2023年3月期の連結決算から、期末店舗数142店で割り算したのが店舗当たりの収支の目安となる数値だ。ここでは大まかに売上原価と人件費を変動費として、その他の販管費を固定費として損益分岐点を試算するという考え方をとっている。
ちなみに、人件費=固定費という概念があるのだが、労働集約的なスーパーの場合、人が動かないと商売が回らないため、売り上げと連動するという実態がある。実際にオーケーの場合、ここ4年間の売上高人件費率は、ほぼ10.2%ときれいに連動している。その他の経費は店の規模に応じて決まってくるため、売場面積に応じて試算ができる、という前提である。
銀座店の売場面積は、約2140平方メートルであるため、平均値(売場面積当たり売り上げ)から試算すると、店舗売上は51.2億円が理論値となる。賃料は、銀座ではオーケー既存店の立地より数倍高くなるため、高めに調整が必要だ。横浜郊外の駅周辺と銀座の賃料水準が約3倍というデータがあったため、今回は4倍で設定してみた。
この水準で計算しても、オーケーの収益構造だと少し黒字になる感じだ。また、売り上げも賃料4倍で同じということは普通ないため、1.5倍として想定すると営業利益率は8.7%程度という試算になった。
なぜこれまで銀座に出店しなかったのか
会社側のコメントでも「全社トップクラスの売り上げを期待する」とあり、試算した売り上げ以上になるだろう。データで見た場合でも、オーケー銀座店は十分にもうかることは間違いなさそうだ。では、このような成算があるのなら、なぜ今まで出店しなかったのだろうか。
それは簡単な話で、オーケーは首都圏16号線内の比較的人口密度の高い住宅地から発祥し、そこでの勝ちパターンを構築してきた。チェーンストア理論に基づき、勝ちパターンを可能な限り再生産していた、ということにすぎない。勝つ確率が高い立地を可能な限り横展開するのは当たり前で、出店余地がある限り、そこでの出店を拡大するという合理的な経営判断をしていたことになる。
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