宝塚パワハラ事件 経営者の醜い責任逃れは、なぜなくならないのか:河合薫の「社会を蝕む“ジジイの壁”」(2/3 ページ)
「確認できなかった」「知らなかった」──企業の不祥事が起こるたびに、こうした経営者の言葉が繰り返されてきた。なぜ、経営者の醜い責任逃れをするのか。ハラスメントはどうしたらなくなるのか。
被害者を守らない相談窓口と、減らない悲劇
しかも、何か問題が起こると「だったら相談窓口作りましょ!」と、1に相談、2に相談、3、4がなくて5に相談と、思考停止で「相談窓口攻撃」に終始し、組織と個人を分離したがります。
それでいて「相談窓口」は会社だけを守り、被害者をないがしろにするケースが多くあります。
おかげで、過労自殺する人の数は一向に減らず、むしろ増え続けているのです。
さらに、過去1年間に経験した心理的負荷のある具体的出来事を性別にみると、男女ともに「上司などから、身体的攻撃、精神的攻撃などのパワーハラスメントを受けた」が最も高く(男性7.5%、女性8.9%)、「上司とのトラブルがあった」(男性5.0%、女性4.4%)が続いています。
件の宝塚の報告書の最後にある「本件事案が発生した原因に関する考察」には、次のように記されています。
「本件事案が発生した直前期の出来事は、一定の強度の心理的負荷であったとの評価があり得、これらを統合すると、認定基準において客観的に精神障害を発病されるおそれのある強い心理的負荷であるとされる場合に相当する程度の強い心理的負荷が故人にかかっていた可能性は否定できないと考える」
これらの文言をストレートに解釈すれば「パワハラはあった」であり「認定基準において客観的に精神障害を発病されるおそれのある強い心理的負荷がかかっていた」と認めた時点で、それはハラスメントなのです。
「上司などから、身体的攻撃、精神的攻撃などのパワーハラスメントを受けた」「上司とのトラブルがあった」と、故人のご遺族が訴えている以上、「パワハラはなかった」とする報告書も、経営陣の解釈も間違っているし、誠実さに欠けている。少なくとも私はそう考えています。
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