『原神』爆発的ヒットの要因は、「無課金勢」を見捨てない設計にある:エンタメ×ビジネスを科学する(3/3 ページ)
スマホゲームに触れたことがあれば、まず知らない人はいないであろう中国発のゲーム『原神』。ここまで巨大なゲームコンテンツとなった要因を分析する。後編。
計画的なアップデートと「流行ってる感」の演出
原神は約6週間ごとに中規模アップデート、約1年ごとに大規模アップデートを継続的に行っている。これには新コンテンツや機能の追加、既存コンテンツの改善が含まれる。また中規模アップデートの合間にはイベントの実施など、小規模なアップデートが繰り返されており、期間中はほぼ常に何らかの追加コンテンツが実装されている状態となる。これによりプレイヤーを飽きさせない状態が保たれている。
余談だが、これらのアップデートのスケジュールは新型コロナによるロックダウンを除いて崩れたことはなく、アップデートに伴うメンテナンスが予定時刻を過ぎて延長したことや、突発メンテナンスなどによるゲーム本編のサービス停止も発生したことがない。
この計画的かつ継続的なアップデートは、プレイヤーのモチベーション維持につながり、接点を持ち続けることに寄与している。ただし、ここまで述べたような魅力的なゲーム設計と、ライト層の定着を重視したとしても、世界のゲームプレイヤーに認知されなければ当然ユーザーは増えない。
原神は、SNSを活用したプロモーションに注力しており、サービス開始当初から毎日相当数の投稿を行い、ユーザー接点の確保に努めている。リアルの世界においても、日本国内では駅の看板やポスター、山手線ラッピング、海外ではアルプスの山上へのオブジェ設置といった大規模な物理広告、カフェや飲食店などのコラボイベントも実施しているが、これらはSNS上での話題作りを意識していると考えられる。
参考までに、各ゲームの日本語公式Xアカウント・TikTokアカウントのフォロワー数(いずれも2023年11月23日時点)を記載する。
ゲームタイトル | Xフォロワー数 | TikTokフォロワー数 |
---|---|---|
原神(日本語公式) | 349.5万 | 70.3万 |
モンスターストライク | 374.7万 | 9.2万 |
ポケモン | 234.8万 | 570万 |
Fate/Grand Order | 208.4万 | 5.0万 |
原神のX日本語公式アカウントは300万人を超えており、モンスターストライクに迫る規模である。投稿内容は主にゲームの最新情報やアップデートの予告、イベントの告知、キャラクターやストーリーの紹介などであり、1日平均で5〜10件程度を投稿し続けている。
モンスターストライク・原神はともに、アップデート情報に関するYouTubeライブ配信の同時接続数が20万人を超えており、SNS・Webサービスを活用したプロモーションの成功事例といえるだろう。
なお原神のX英語公式アカウントのフォロワー数は500万人以上、中国weibo公式アカウントのフォロワー数は1000万人を超えている。ライブ配信に関しても英語はTwitch、中国はbilibiliとそれぞれ別のプラットフォームで行っており、各プラットフォームの同時接続数を足すと数百万人の規模に到達する。
エンタテイメントはしばしば、流行がさらなる人を呼ぶものだ。そのため、新規層を獲得するためにはそのコンテンツの「流行ってる感」を打ち出す必要がある。ゲーム内で継続的に新しいコンテンツを投入し、SNSなどゲーム外の各チャネルでアピールし、流行ってる感を創出する。インプレッションが増えることでさらに新規層が集まる――というサイクルをグローバル規模で実行しているのだ。
なお、各国プレイヤーへ原神を始めたきっかけを伺ったところ、最も多かったのが友人の紹介であり、次いでXなどのSNS、Twitchなどのライブ配信と続いた。
まとめ
原神はオープンワールド・アニメ風のグラフィック、多彩なキャラクターや戦闘システムなどの魅力と特徴を持つゲームであり、過去の名作を研究したうえでエッセンスを抽出し、融合させている。
ゲーム内ではプレイヤー間の競争を排除する工夫を随所に凝らし、ライト層の定着・離脱防止を図っている。
miHoYoはクロスプラットフォーム対応・多言語対応によるグローバル展開を行い、継続的なアップデートとSNS上でのプロモーションに注力し、ファンマーケティングを行っている。
なお本稿ではmiHoYoのゲームのうち原神に着目したが、他にも今年4月にサービス開始した『崩壊スターレイル』、東京ゲームショウにも出展しサービス開始が近いと見られる『ゼンレスゾーンゼロ』など、今後成長が期待される新たなゲームも展開している。
これらは原神同様にアニメ風のデザインであるが、原神とは異なるジャンルで成功を目指しているタイトルである。これらの新作が原神と同規模に成長するのか、また原神の成長は続くのか。日本アニメの要素を武器としたゲーム制作を目的に立ち上げ、「tech otakus save the world(技術的なオタクは世界を救う)」をスローガンに掲げるmiHoYoの動向に今後も注目したい。
関連記事
- 名作ゲームの“いいとこ取り”を徹底? 中国発『原神』の人気を探る
人気が衰えるところを見せない中国発のゲーム『原神』。ここまで巨大なコンテンツとなった理由を解剖する。前編。 - 「アーマード・コア」10年ぶり新作が爆売れ “マニア向け”ゲームだったのに、なぜ?
フロムソフトウェアの「アーマード・コア」新作が好調だ。発売前からSNSで大いに話題となり、発売後初動の盛り上がりもすさまじい。なぜ、ここまでの盛り上がりを見せているのか。 - 「モンハン×位置ゲーム」 “ひと狩り75秒”に込めた意図
米Nianticは9月14日、「Monster Hunter Now」を正式リリースした。同作はどのような経緯で開発されたのか。チーフプロダクトオフィサーの河合敬一氏と、シニアディレクターの野村達雄氏に聞いた。 - 『ジャンプ』伝説の編集長が、コミケ初代代表と議論した「出版社と二次創作」
『週刊少年ジャンプ』編集長を務めたマシリトこと鳥嶋和彦さん、コミケ初代代表の霜月たかなかさん、コミケの共同代表の筆谷芳行さんが商業化するコミケの実態と、二次創作と出版社の関係を議論した。 - 「ゼルダ」実写化に見る、任天堂IP戦略の“理想像”とは
任天堂が『ゼルダの伝説』を実写映画化する。最近ゲーム以外へのIP活用の動きが目立つ任天堂だが、そこにはある「理想像」があるはずだ。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.