『原神』爆発的ヒットの要因は、「無課金勢」を見捨てない設計にある:エンタメ×ビジネスを科学する(2/3 ページ)
スマホゲームに触れたことがあれば、まず知らない人はいないであろう中国発のゲーム『原神』。ここまで巨大なゲームコンテンツとなった要因を分析する。後編。
金銭的メリットの薄い「Pay to Win」
「Pay to Win」とは「お金を払って勝つ」こと、つまり課金することで他のプレイヤーより優位に立てるゲームバランスを指す。原神はPay to Winによるうまみが薄くなるようにつくられている。
これはライト層・コア層の差を小さくするほか、Pay to Winに否定的なアジア外地域への配慮もあると考えられる。日本や中国では市民権を得ている考え方だが、西欧諸国では忌避感を覚えるプレイヤーが少なくないのだ。
各国のプレイヤーへのインタビューでも、ゲームへの課金経験や課金することの是非について、東アジアとその他地域で明確に印象が異なっており、東アジア以外では批判的な声が多く見られた(「ただし原神への課金はやむ無し」との声も相当数あったが)。
また日本や中国においても、課金するコア層と無課金のライト層の間で得られる報酬などに著しい差がある場合、ライト層の離脱につながりやすい。一方で「ガチャ」型の集金モデルである以上は、課金するコア層にメリットを提供しなければならず、Pay to Winからは避けられない。このジレンマを解決しているのが「金銭的メリットの薄いPay to Win」である。
原神には競争要素がなく、また全体として低難度であることから、課金して強力なキャラ・アイテムを入手する重要度が相対的に低い。またエンドコンテンツといわれるモードも、クリア者しか入手できないような限定アイテムの類はない。
従って、課金して得たキャラクターやアイテムによって得られる金銭的メリットはほとんど存在せず、せいぜい「入手したキャラ・アイテムを自ら操作する権利」「より楽にクリアすることが可能となる時間的・精神的余裕」に限られる。
多くの基本プレイ無料のゲームの収益は、上位数%のコア層、つまり「廃課金層」に支えられている。短期的な収益のみを考えれば、大きなメリットを持たせたPay to Winの設計とし、コア層同士で競争させ、より多く課金させる方が効率的である。
しかしこれは中長期的には、モチベーションの落ちたライト層から離脱し、プレイヤー数の減少とともにコア層の離脱へと波及する。原神は開発当初から5年以上のサービス継続を目指しているとしており、長期間のサービス継続にはコア層の優遇よりもライト層の定着・離脱防止を優先すべきと判断したのだろう。
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