『原神』爆発的ヒットの要因は、「無課金勢」を見捨てない設計にある:エンタメ×ビジネスを科学する(1/3 ページ)
スマホゲームに触れたことがあれば、まず知らない人はいないであろう中国発のゲーム『原神』。ここまで巨大なゲームコンテンツとなった要因を分析する。後編。
スマホゲームに触れたことがあれば、まず知らない人はいないであろう中国発のゲーム『原神』。2020年のサービス開始から4年足らずで総プレイヤー数は6500万人を超え、運営元の中国のゲーム会社miHoYoの業績は日本円で5500億円を超えている。なぜここまで多くのユーザーからの支持を集めているのか。
前編では「市場環境に合致した要素を独自に組み合わせた設計」について解説した。後編となる本稿では(2)コア層育成よりも離脱防止を重視した運営と設計、(3)計画的・継続的なアップデートとwebサービスを活用したプロモーションについて考えてみたい。
「ライト層」の定着・離脱防止を重視した運営とゲーム設計
オンラインゲームかつ、中長期の運営を見据えたゲーム全てにいえることであるが、たとえ魅力的なゲームを作り、初動がうまくいったとしても運営を失敗すればユーザーは定着せず離れていく。ユーザーの定着・離脱防止はオンラインゲームにおいて重要なテーマである。原神は当初より一貫してライト層の獲得・離脱防止を意識したゲーム運営をしている。具体的には「プレイヤー間の競争排除」「低難度」「メリットの薄いpay-to-win」の3点である。
「プレイヤー間の競争」を徹底的に排除
旧来よりプレイヤー間の競争はゲームへの没入を促進し、コア層の増加、それに伴う収益の増加に寄与してきた。ゲームそのものが対戦型の場合はもちろんのこと、非対戦型のゲームであってもランキング形式のゲームモードを設けることで、プレイヤー間で優劣を競わせることはコア層育成の王道だ。
しかし、この競争要素は勝者と同時に敗者も生み出し、多くの場合敗者のモチベーションは下がり、離脱の要因となる。コア層の集団内に限れば敗北を糧に鍛錬を積み勝利を目指す流れを作れる可能性はあるが、プレイヤーの大多数はライト層なのだ。
原神はこの離脱要因になりうるプレイヤー間の競争要素をゲーム本編においては徹底的に排除している。唯一、22年12月のアップデートで追加されたカードゲームモード「七聖召喚」がPVP(プレイヤー対プレイヤー)要素であるが、このモードの報酬は本モード内だけのものであり、プレイしないことによるゲーム本編へのデメリットはない。このように、「望まない競争」を強制せず、ライト層の離脱を排除しているのが特徴だ。
なお、「七聖召喚」は対戦型カードゲームを好むコア層には人気であり、賞金総額500万円の国際大会が行われるなど、Eスポーツ領域へも進出している。
あえて「低難易度」に
よりライトにゲームを楽しみたい層に対し、クリア難度が高いコンテンツはモチベーションの低下・離脱につながる。そのため原神というゲーム全体が比較的低難度に作られている。その上、アップデートでさらに難易度を下げる機能も実装されたため、ゲーム初心者であってもストーリー進行に詰まることはほとんどない。
いわゆるエンドコンテンツ(やりこみ要素)のモードも競合タイトルに比べ難度は低く、一部のコア層しかクリアできない――といったものではない。
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