“元ボロ株”さくらインターネット、株価50倍の衝撃 「ここにきて急成長」のワケ:古田拓也「今更聞けないお金とビジネス」(1/2 ページ)
日本におけるデータの主権をリードする民間企業として知名度を急拡大させている「さくらインターネット」だが、実は元“ボロ株”。15年ほど前は40円程度で取引されており、いまいち「パッとしない」銘柄扱いだった。当時と比べ現在の株価は実に50倍以上。一流の米国株並みの成長を誇る。なぜ「今さら」、さくらインターネットに注目が集まっているのだろうか。
元“ボロ株”のさくらインターネットに白羽の矢が立った──。
日本におけるデータの主権をリードする民間企業として知名度を急拡大させているのが「さくらインターネット」だ。同社は、2023年11月にデジタル庁が主導する政府のクラウドインフラ「ガバメントクラウド」のサービス提供事業者に採択された。
また、同社はかねて国内向けのクラウドインフラ投資に積極的であり、23年6月には経済安全保障推進法に基づく「クラウドプログラム」認定の一環として3年で130億円規模のクラウドインフラ投資を行うことを発表していた。
連続して政府関連のプロジェクトに参画すると分かったこともあり、同社の知名度と市場の関心はうなぎ上りに。株価はここ1カ月で238%も上昇し、2200円台半ばで推移する加熱ぶりをみせている。
そんな同社、実は元“ボロ株”。15年ほど前は40円程度で取引されており、いまいち「パッとしない」銘柄扱いだった。その当時と比較すると株価は実に50倍以上。一流の米国株並みの成長を誇っている。なぜ「今さら」、さくらインターネットに注目が集まっているのだろうか。
株価は急上昇──“パッとしない銘柄”に、何があった?
まず、さくらインターネットの業績を確認すると、実は16年3月期の売上高120億円から23年3月期の206億円まで、一貫して安定した成長を示している。同社の事業は国内を中心に順調に拡大しており、株価の上昇も単なる話題性によるものというわけではなさそうだ。
では、なぜGoogleやAmazonのような支配的な大手クラウド企業ではなく、さくらインターネットが国家の重要なデジタル戦略の一翼を担うことができたのか。その理由の一つに「データの主権(Data Sovereignty)」が関係している。
データの主権問題がトレンド
データの主権とは、データが生成された国または地域の法律や規制に従って管理されるべきであるという考え方だ。
近年、GoogleやAmazon Web Service(AWS)といった米国企業が占めるクラウドサービスへの一極集中が問題視されている。この種の問題は「データの主権(Data Sovereignty)」問題ともよばれ、国や行政が活用可能なレベルのサービスをその国の事業者が提供すべきではないかという点が多くの国で議論されている。
確かに、インターネットがない時代には、国のインフラや電話・通信にかかる企業は国営化されていた。民営化以降も一定の株式を保有することで統制を効かせたり、不本意な買収を避けたりする仕組みになっていた。近年、NTTの政府保有株式の売却が問題になっているが、この問題についても旧国営企業の株式を手放す際の外国資本による乗っ取りを懸念する声もあり、重要なインフラ企業に関してはその“主権”がたびたび問題になる。
しかし、かつては国有化されていた「電話」と同じか、それ以上に利用機会のある「クラウドサービス」は米Googleや米AWSをはじめとする米国企業の寡占状態にあり、日本政府が株主として統制を効かせることもできなければ、日本国の主権を及ばせることが難しい部分も存在する。
日本国政府の重要な情報を、主権が及ばない外国企業に保管させることは大きなリスク要因になり得る。「データの主権」は、このように、重要なデータについて、それが生成された国または地域の法律や規制に従って適切に管理されるべきであるという考え方のもと生まれた価値観である。
この点、さくらインターネットは日本国内に根ざしたクラウドサービスプロバイダーとして、データの主権を重視したサービスを提供している。国内の法律や規制に準拠し、データを日本国内のデータセンターで管理することにより、株主として統制を効かせるまではできないとしても、自国のデータに関して日本国の主権を及ぼすことは可能だ。これは、国家戦略としてのデジタルトランスフォーメーションやセキュリティ強化とも足並みがそろう。
グローバルなクラウドサービス市場での競争は激しく、GoogleやAmazonのような大手事業者が強い影響力を持っているが、データの主権という観点から、国内事業者の役割はそのような海外の巨人に対する「壁」として作用するだろう。さくらインターネットが国家戦略の一翼を担うようになったのは、国内法規制への準拠とデータの安全性・信頼性を保証できるという期待によるものが大きい。
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