“元ボロ株”さくらインターネット、株価50倍の衝撃 「ここにきて急成長」のワケ:古田拓也「今更聞けないお金とビジネス」(2/2 ページ)
日本におけるデータの主権をリードする民間企業として知名度を急拡大させている「さくらインターネット」だが、実は元“ボロ株”。15年ほど前は40円程度で取引されており、いまいち「パッとしない」銘柄扱いだった。当時と比べ現在の株価は実に50倍以上。一流の米国株並みの成長を誇る。なぜ「今さら」、さくらインターネットに注目が集まっているのだろうか。
さくらインターネットはレッドオーシャンで生き残る?
さくらインターネットは、2000年代まで強みにしていた物理基盤のサービスからクラウドサービスへと事業の焦点を移してきた。「GoogleやAWSに勝てるわけない」という国内からの冷ややかな目線にさらされることも少なくなかった。
しかし、物理基盤のサービスで販路やシェアを保有していたことが、ビジネスモデルのスムーズな移行をもたらした。Googleであれさくらインターネットであれ、クラウドサービスは物理基盤サービスに比べて原価が上がりにくく、多くのユーザーが使用してもコストが大幅に増加しないという特性を持っており、規模は異なれど着実に収益を積み上げることに成功している。16年からコロナ禍突入前の20年3月期まではいずれも売上高は2桁%に及ぶ高成長をみせ、その時点で「パッとしない」銘柄からは卒業していたのだ。
さくらインターネットの強みは、サービスの自社開発率が高く、これによりライセンス支払いなどのコストを削減していることも大きいだろう。円安の影響により海外からの設備費用やライセンス料が高騰する中、自社開発による人件費などを中心としたコスト削減は大きな競争力の源泉となる。
デジタルトランスフォーメーションの進展やクラウドサービスへの需要増加といった市場環境の変化も、さくらインターネットの成長に貢献しているだろう。特に中小企業やスタートアップなど、柔軟でコスト効率の高いクラウドサービスを求める企業が増加しており、「ガバメントクラウド」に参画するという点も同社のブランディング向上に寄与しそうだ。医療法人や士業、マスメディアなど民間企業においても政府と同様に特にデータの主権を気にする業種は少なくないはずだ。
「GoogleやAWSに勝てるわけない」という言葉の通り、クラウドサービスといえばレッドオーシャン市場であることは火を見るよりも明らかなはずだ。そんな環境で成功するための秘けつは、競合が多い市場において独自の差別化を図り、独自のニーズを満たすことだろう。
まず、通常、レッドオーシャン市場で生き残るためには、既存の商品やサービスと競合しない、ユニークな価値を提供することが重要だ。さくらインターネットの事例では、多くのIT企業がバックエンドをAWSに置き換えていたところで、国産という新しい価値を提供した。
これにより、同社は独自の市場ニッチを開拓し、効率的なビジネスモデルと市場の変化に対応することで、着実に業績を伸ばしている。つまり、さくらインターネットは「GoogleやAWSに勝てるわけない」のではなく、「GoogleやAWSと戦っていない」からこそデータの主権問題というトレンドをつかみ、新たなビジネス機会を得ることに成功したといえる。
筆者プロフィール:古田拓也 カンバンクラウドCEO
1級FP技能士・FP技能士センター正会員。中央大学卒業後、フィンテックベンチャーにて証券会社の設立や事業会社向けサービス構築を手がけたのち、2022年4月に広告枠のマーケットプレイスを展開するカンバンクラウド株式会社を設立。CEOとしてビジネスモデル構築や財務等を手がける。Twitterはこちら
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