豊田章男会長退任の舞台裏 自工会はどうやって生まれ変わったのか:池田直渡「週刊モータージャーナル」(6/9 ページ)
日本自動車工業会(JAMA)は定例記者会見を開催し、年明けからの役員交代を発表した。会長職は、これまでの豊田章男トヨタ自動車会長から、片山正則いすゞ自動車会長へと交代する。そこからJAMAの生まれ変わりストーリーをたどってみよう。
副会長の緊急会議
さてそれで困ったのが当時の各副会長である。彼らは豊田会長が本気で退任を希望していることが嫌というほど分かっている。そしていざ豊田会長に身を引かれるとなれば、彼らのうちの誰かが後任を引き受けなければならない。
すでに引っ込んでしまった豊田会長に丸ごと下駄を預けられたのは、いすゞ自動車の片山正則氏、スズキの鈴木俊宏氏、日産の内田誠氏、ホンダの三部敏宏氏、ヤマハ発動機の日高祥博氏。加えてプロパーのJAMA職員であるJAMA専務理事の永塚誠一氏の6人の副会長である。
それに、スバル、ダイハツ、日野、マツダ、三菱、三菱ふそう、UDトラック各社の社長、それにJAMAプロパーの計9人の理事を加え、緊急会議を招集した。緊急招集にもかかわらず全員がリアルで会議に駆けつけたというから、事態の深刻さは推して知るべしである。
その時、まだ事態の深刻さも知らずにJAMAからメディアとして招集をかけられた筆者は、「忙しいのに急に呼び出すなよ」くらいの気持ちで、取材先の袖ヶ浦のサーキットでリモート会見を待機していたが、予定時刻になっても、会長不在の役員会議が終わらない。確か30分以上待たされて、その後、ようやく画面の向こうに現れた片山副会長が話を始めたのである。その時の異様な雰囲気は今でも覚えている。
これまで自分たちは、豊田会長と一緒に改革の旗を振り、JAMAの生まれ変わりのために戦ってきたつもりでいた。横並びに立っていたつもりだったが、いざこうして「お前がやるか」と言われてみると、いまの自分たちにはできないことを痛感した。矢面に豊田会長を一人立たせて、安全な後方から応援していただけなのではないか。
ほぼ一年前の話で録音してあるわけでもないから、正確に一言一句そう言ったというわけではないが、険しい表情でそういう懊悩(おうのう)を打ち明けてくれたのが片山副会長だった。
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