ビッグモーター騒動で「誰が」もうかったのか?:影響深く(2/2 ページ)
ビッグモーター騒動以降、中古車販売業界の勢力図はどのように変化したのか。業界全体に影響が色濃く残る中、急成長するスタートアップがいた。
新車は好調、中古車は横ばい
中古車販売業界のビジネスは、中古車の「販売」と「修理」に大別できる。中古車の販売ビジネスについては新車販売市場と需要の奪い合いになる一方で、修理ビジネスについては、車が走る限り一定の需要が発生するため、需要の総量自体は大きく変わらない。
中古車販売の動向については、自動車登録台数の統計データから確認できる。日本自動車販売協会連合会および全国軽自動車協会連合会の新車・中古車登録台数の動向を確認しよう。
自動車の販売台数は、コロナ禍の落ち着きによる外出需要の高まりもあって、新車の登録台数は4月から9月までの半期で、前年比10〜20%程度上昇している。一方で、中古車の登録台数は同0〜3%と横ばいだ。前年を割るほど需要が減少していないのは、エネルギーコストや食料品の値上げが継続する中で、価格を抑えられる中古車が消費者に選択されている可能性がある。
従ってビッグモーターの一件だけでは、中古車販売市場全体を左右するほどの影響は与えていないようだ。
自動車整備のスタートアップが急成長?
続いて中古車の修理市場はどうか。業界で大きなシェアを誇る企業の動きは、その構造に挑戦する新興企業に対して追い風となるケースも少なくない。
この点、出張型の自動車整備サービスを手掛けるスタートアップのSeibii(東京都港区)はビッグモーター騒動で恩恵を受けている可能性が高い。
従来、車の整備は認証工場または指定工場で行うことが通常だった。しかし、ビッグモーター騒動によって、自動車整備工場に依頼することへの不信感が高まった。Seibiiではこれに代わり、国家資格を持つ整備士が顧客のもとへ直接出向き、整備や修理を行うというビジネスモデルだ。
Seibiiがこうした出張サービスを開始した当初は、認定工場での整備と比べてサービスの提供範囲や品質について疑問符を投げかける声もあった。
しかしふたを開けてみれば、出張サービスによって整備作業の透明性や信頼性を担保できる点が付加価値となり、新しい消費者のニーズに応えられるようになった。同社の決算情報によると、21年12月期の売上高は2.4億円であったのに対して、創業者の佐川氏はX(旧Twitter)で、今期の売上高が10億円を超えていることを示唆している。
ビッグモーター騒動後の業界の勢力図は、業界全体の縮小や中小事業者の倒産増加という影響をもたらしている。その一方で、Seibiiのようなイノベーティブなサービスが、顧客の新たなニーズに合致する形で顧客の選択肢を広げる可能性を持っている。
伝統的なビジネスモデルが岐路に立たされている今、スタートアップ企業にとっては伝統的な商慣習を打破する好機が現れたといってもよいだろう。
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