「SaaS企業の動画広告」からタレントが消えたワケ:動画マーケのトレンド変遷を読み解く(2/3 ページ)
動画広告市場が好調だ。そして、その内容面に変化が起きつつある。市場拡大をけん引してきた、SaaS企業がこぞって「タレント起用」をストップしたのだ。どういった意図があるのかというと……
タレント起用の波はどうやって生まれた?
そこから、なぜタレントを活用する流れになったのか。背景には、コロナ禍によるクラウドサービスの伸長と活況な資金調達環境がありました。コロナ禍でデジタル化が進んだことで、一気にSaaSの需要が増加。資金調達環境も活況で、多くのSaaS企業が一定の資金を調達できたため、マーケティング活動への投資も積極的でした。
タクシー広告も登場から3〜4年の月日を経て、マーケティング手法として定番化していました。結果、タクシー広告を活用する企業が増え、動画動画広告のクリエイティブはどの企業も似たようなものになっていたのです。
B2C商材であればクリエイティブのパターンはさまざまあるでしょうが、B2B商材の場合は広告撮影のロケーションがオフィスか会議室くらいしか選択肢がありません。また20〜22年にはSaaSが数多く登場したため、競合も増加し、結果的に同じようなクリエイティブの動画広告が増えてしまったのです。
では、どのようにして広告の差別化を図るのか。ロケーションが限られるB2B商材が採った選択肢がタレントの活用でした。広告にタレントを活用することで、色をつけるしか認知拡大の方法がなかったのです。そのため、多くのSaaS企業がこぞってタレントを活用することに。20〜22年は、まさにタレント広告全盛の時代だったと言えるでしょう。
アテンションを獲得するために、タレントを活用する。差別化の方法として多くのSaaS企業がタレントを活用した動画広告を制作したのですが、どの企業も同じような取り組みをしたため、結果的にすぐ既視感がある動画広告になってしまいました。
そして、今起きているのが「タレント活用への疑念とコンセプト回帰」です。アテンションを獲得するためにタレントを活用したものの、それによってどれくらいの効果が生まれたのか。多くの企業が、その費用対効果が検証できないことに気付きました。費用対効果の検証ができなければ、継続的な投資は難しくなります。
また、タレントの活用は良くも悪くも「色」がついてしまいます。例えばビールメーカーであれば、お酒好きなイメージのあるタレントを広告に起用することで、そのタレントのファンがビールを購入することも見込めるでしょう。B2C商材の場合は、自社のブランド特徴と狙いたいターゲット層を掛け合わせてタレントを活用することで、購入への意思決定を促進できます。
しかしB2B商材においては、特定のタレントの色をつけることが、導入の意思決定に影響を与えることはまずありません。
B2B商材の場合、経営者や担当者だけで意思決定することはなく、基本的には合議・ロジック・課題解決をベースに意思決定します。好きなタレントがCMに出ているといった、感覚ベースで導入されることはありません。タレント起用によって、社名の指名検索数は増えるかもしれませんが、決定打にはならないのです。
また、B2B商材のメインユーザーとなり得る職種(人事や経理など)のイメージを持つタレントも基本的にいません。そのため、プロダクトにタレントのイメージをつける必要がないのです。
それに加えて、タレントが不祥事を起こすリスクも常に抱えることになります。起用のリスクとサービスの知名度を天秤に乗せた結果、ガバナンスの観点から活用を控えるという意思決定をした企業が増えてきたと考えられます。
実際に、SaaS企業のマーケティング担当者からは「効果がなかったので、二度とタレントを起用する予定はない。今後はUIを訴求し、利用イメージを持ってもらう動画にシフトする」といった話をよく聞くようになりました。
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