「リニア中央新幹線」の静岡は、いまどうなっているのか 論点を整理してみた:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(2/8 ページ)
JR東海が建設中のリニア中央新幹線だが、静岡県が着工を認めない。静岡県も知事も建築反対のように見えるが、賛成の立場だという。そこでいったん立ち止まって、リニア中央新幹線とは何か、現在の論点は何かを整理してみた。
リニア中央新幹線は国策、ただし税金を投入しない
そもそもの話である。リニア中央新幹線は「超電導磁気浮上式リニアモーターカーを採用した中央新幹線」の略称だ。
超電導磁気浮上式リニアモーターカーは、磁力で浮上させた車両を、磁力で推進させる仕組みだ。国鉄時代の1960年代から「将来は東京〜大阪間を1時間で結ぶ」という目標で研究開発が進められてきた。従来の鉄輪式鉄道と比較して、車輪とレールの摩擦がないから、摩擦力の限界以上の速度を出せるし急勾配も得意だ。
国鉄時代は宮崎県に実験線を敷設して試験を重ね、国鉄の分割民営化後はJR東海が主体となって、山梨県の実験線で開発を続けている。最高速度は試験運行で時速603キロメートルを記録した。営業速度は時速505キロメートルを予定している。所要時間は東京(品川)〜名古屋間で最速40分、東京〜大阪(新大阪)で最速67分となる。
中央新幹線は「全国新幹線鉄道整備法」に基づき、73年に国から基本計画に定められた。同じ時期に基本計画となった路線は、「羽越新幹線」「四国新幹線」「東九州新幹線」など11路線ある。基本計画路線は、国が整備計画を決定してから具体的に動き出す。72年までに6路線が着工し、次は73年組のどこが予算を獲得できるか、沿線各地で促進運動が行われている。
しかしJR東海は、中央新幹線について国の整備計画を待てなかった。理由は「東海道新幹線の老朽化と再整備」「南海トラフ地震で海側ルートが通行できない場合に、東名阪の移動を担保するため」だ。南海トラフ地震は約100年周期で発生しており、次のピークは2035年。いまや活動期に入っている。JR東海としては東海道新幹線をいち早く二重化したい。国の整備計画を待っていられない。そこで、全額自己資本で建設すると決定した。
ほかの整備新幹線は国土交通省所管の独立行政法人「鉄道・運輸機構」が建設し、JRが施設使用料を支払う。中央新幹線は「鉄道・運輸機構」の代わりにJR東海が建設し、JR東海が運営する。
こうして中央新幹線はJR東海の民間事業となった。しかし国策であることは変わらない。国が事業者としてJR東海を指名したという形だ。これは中央新幹線に限らず、国際空港の建設、高速道路の建設もほぼ同じ。国策だけれども、国は直接事業を実施しない。
JR東海は自己資金で建設するから、損益を勘案し、虎の子の超電導磁気浮上式リニアモーターカー技術を使うことにした。まずは品川〜名古屋間を事業化し、事業が安定してから名古屋〜新大阪間に着手するつもりだった。
しかし今度は国が待ちきれず「大阪まで早く開業してほしい。資金は低利で貸し付けるから」として、総額3兆円の財政投融資を持ちかけた。年利は0.6〜1.0%で、46年まで据え置き、そこから元利均等返済する。
リニア中央新幹線の大阪延伸について、JR東海は45年と見込んでいた。返済開始はその翌年だ。しかし国は8年前倒し、37年の開業を期待している。37年に開業しても返済開始は46年から。JR東海にとっては開業が早まるほど稼げるわけで、努力が報われる。
財政投融資は、国が「優良と見なした事業」を対象に実施する低金利融資である。よく誤解されているけれども、これは税金の投入ではない。JR東海は国に優遇されているとはいえ、元本も金利もキッチリ返さなくてはいけない。
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