「リニア中央新幹線」の静岡は、いまどうなっているのか 論点を整理してみた:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(6/8 ページ)
JR東海が建設中のリニア中央新幹線だが、静岡県が着工を認めない。静岡県も知事も建築反対のように見えるが、賛成の立場だという。そこでいったん立ち止まって、リニア中央新幹線とは何か、現在の論点は何かを整理してみた。
決着:環境保全はモニタリングで随時対応
静岡県はトンネル周辺の環境、特に生態系の保全にこだわっている。この地域はユネスコが認定したエコパーク(生物圏保存地域)でもある。世界が保護を望む地域といえる。そこは国もJR東海も同意だ。地表の生態系はトンネルとは直接関係はない。しかし、もしトンネルによって地下水が失われた場合は生態系への影響が懸念される。
JR東海は環境影響について「重要な植物の種が生育する箇所をできる限り回避する」「やむを得ず回避ができない場合などには、類似した環境を持つ場所へ移植・播種を行うことで代償する」とした。南アルプス地域の生態系では10年の調査で植物の固有種は25、動物の固有種は36という結果がある。
国の有識者会議は水問題の中間報告のあと、22年6月8日から14回にわたり環境保全について検討し、23年12月7日に報告書を公開した。
南アルプスにある35の沢のうち、主要な断層とトンネルが交差する箇所の周辺の沢において、工事前から流量の減少傾向が確認された。そこで重点的にモニタリングする11の沢を選定した。JR東海は今後の工事に当たり、ボーリング調査の結果を踏まえて、地質を固定し水の流出を止めるため薬液(土木用語で凝固剤のこと)を注入することとした。
なお、有識者会議の調査検討の結果、高山部の植物生育に使われる水は地下水ではなく、地表部に保持された水であると判明した。地下水の変化による植物の影響はない。ただし、自然環境は不確実性が伴い完全な予測は不可能なため「順応的管理」を実施する。具体的には重点的なモニタリングを実施する沢について、生息・河川形態、伏流状況、水位、流量変化に影響を受けやすいと考えられる生物の生息状況の現地調査も実施することとした。
要するに、随時モニタリング(現地調査)を実施し、影響があれば直ちに対策をしましょうという決着だ。余談だが、JR東海に聞くと、現地調査は機械やセンサーによる遠隔管理ではなく、調査員がその都度登山するとのこと。鉄道会社に入社したら登山を命じられるとは、担当者が気の毒というか、むしろ登山好きな人が入社を志望したら良いと思う。ともかく、国の有識者会議の報告書が出たため、こちらも決着である。
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