「リニア中央新幹線」の静岡は、いまどうなっているのか 論点を整理してみた:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(8/8 ページ)
JR東海が建設中のリニア中央新幹線だが、静岡県が着工を認めない。静岡県も知事も建築反対のように見えるが、賛成の立場だという。そこでいったん立ち止まって、リニア中央新幹線とは何か、現在の論点は何かを整理してみた。
甲子園の優勝を県大会で確認!?
リニア中央新幹線の静岡県の対応について「本音は反対」「ゴールポストを動かしている」などの批判もある。静岡県が不安で仕方ないことは確かで、その不安の高まりは天井知らずだ。しかし国の有識者会議で、一定の指針が示された。静岡県の不安を鎮めつつ、JR東海には有識者会議の助言には従うよう求めている。ここが落とし所である。
水問題、生態系環境問題、盛土問題はもう決着、あるいは決着に向かっている。しかし、決着したけれども解決ではない。工事許可が出てやっと問題解決である。JR東海も静岡県も、国の指針に沿って、今後は実務レベルの対処を検討する段階だ。それは工事開始に向けた準備であるはずだ。
ところが川勝知事や県は「国の有権者会議の結果を持ち帰り検討する」「不十分なところがある」という。静岡県が「国の議論が十分ではない」といたずらに県の会議を重ねようとすれば、それは「国の決定を県が検証する」というヘンな話になってくる。「甲子園で優勝校が決まりました。でも承知できないから静岡県で試合をやり直します」というようなものだ。
静岡県は国の有権者会議を尊重し、工事開始に向けた協議を始めるべきだ。それができないというなら、私はひとりの国民として、何ひとつ静岡県に同情する理由がない。
杉山淳一(すぎやま・じゅんいち)
乗り鉄。書き鉄。1967年東京都生まれ。年齢=鉄道趣味歴。信州大学経済学部卒。信州大学大学院工学系研究科博士前期課程修了。出版社アスキーにてパソコン雑誌・ゲーム雑誌の広告営業を担当。1996年よりフリーライター。IT・ゲーム系ライターを経て、現在は鉄道分野で活動。著書に『(ゲームソフト)A列車で行こうシリーズ公式ガイドブック(KADOKAWA)』『ぼくは乗り鉄、おでかけ日和。(幻冬舎)』『列車ダイヤから鉄道を楽しむ方法(河出書房新社)』など。公式サイト「OFFICETHREETREES」ブログ:「すぎやまの日々」「汽車旅のしおり」。
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