米国で1000億円市場 コカ・コーラ社が20代から広げる新カテゴリーのマーケ戦略:2年で10倍の成長(1/2 ページ)
コカ・コーラ社が「リラグゼーションドリンク」という新たな飲み物のカテゴリーを、日本で開拓している。商品名は「CHILL OUT」(チルアウト)。どんなマーケティングを展開しているのか、担当者に聞いた。
コカ・コーラ社が新たな飲み物のカテゴリーを日本で開拓している。その名は「リラグゼーションドリンク」。文字通りドリンクを飲むことで、飲んだ人にリラックス効果を感じてもらうというもの。2010年代以降、日本で隆盛を見せるエナジードリンクとは対極的なコンセプトだ。
商品名は「CHILL OUT」(チルアウト)で、16年から販売している。当初は大阪市の企業I-neが16年に立ち上げたブランドで、19年からは日本コカ・コーラとの合同会社「Endian」(エンディアン)によって展開していた。以降、小売店で一気に販売することはなく、リラックス効果が求められる銭湯やサウナなどの施設で重点的に展開していった形だ。今では少しずつ販路も広がり、一部のコンビニや駅の自販機などでも扱っている。
23年5月には、I-neが持つEndian株を全て日本コカ・コーラ社に譲渡。10月には、チルアウトをコカ・コーラシステムに移管した。10月9日からはコカ・コーラ社のブランドの飲み物として展開し、いよいよリラグゼーションドリンクとして売り出していく。
日本コカ・コーラでチルアウトの商品企画に携わっているのが、渡邉憲シニアブランドマネージャーだ。どんなマーケティングを展開しているのか。渡邉さんに聞いた。
渡邉憲 (わたなべ・あきら)2005年、日本コカ・コーラ株式会社に入社。「ジョージア」を皮切りに、飲料カテゴリーのR&D、新規事業開発を経て、2019年10月合同会社「Endian」を立ち上げ。共同職務執行者として、経営・事業戦略の策定、マーケティング活動を中心に商品開発からコミュニケーション戦略を担う。2023年10月より日本コカ・コーラ マーケティング本部 ニュートリションカテゴリー「CHILL OUT」シニアブランドマネジャーとしてマーケティングを担当。自身が極度のあがり症だったことがビジネスシーンでのパフォーマンス向上におけるリラクゼーションの重要性を認識するきっかけとなった
米国で2010年前半に登場 1000億円ビジネスに
――コカ・コーラ社がリラクゼーションドリンクという新カテゴリーに目を付けたきっかけは。
われわれがこのチルアウトを最初に導入するときに参考にしたのが、米国の先行事例です。米国も日本と同様、エナジードリンク市場がかなり大きく成長した後に、リラクゼーションドリンクという真逆のコンセプトのドリンクが10年代前半に登場したんですね。
リラクゼーションドリンクは米国で1000億円のビジネスとして成長しています。この成功を見ていますので、同様の動きが日本でも絶対出てくるだろうとの確信から、日本発でこういうドリンクを作っていこうと始めました。
――タイムマシン経営のようなものですね。エナジードリンクの場合は、飲んだら目が覚めるとうたっています。リラクゼーションドリンクの場合、どんな提案をしているのでしょうか。
一般的なカフェイン配合のエナジードリンクと比べると基本的に、全く真逆のものが配合されています。主なものとしては、ギャバ、ホップエキス、テアニン、ヘンプシードエキスという4つのリラクゼーション成分ですね。カフェインなど高揚感につながるとされるものは入っていないのです。
効果は個人差があるのですが、お風呂やサウナ上がりですごくリラックスしている状態、いわゆる「整う」状態がより上質化するといったイメージでしょうか。リラックス感が得られ、緊張感を和らげる効果が期待できると提案しています。
――16年にチルアウトの販売を始めたわけですが、当時はほとんど目にする機会がなかったように思います。どのような商品展開をしていったのでしょうか。
16年から19年までは、一部のコンビニで販売していました。この3年間は本当に小さなテスト展開といった形で、日本に需要そのものがあるのかといったところから手探りで進めていきました。
19年からは関東エリアを中心に、自販機での展開や、ドラッグストアでの取り扱いも始めました。取り扱いのコンビニチェーン店も少しずつ増やしていきました。以降は徐々に販売エリアと販路を少しずつ広げていっている状態です。22年から全国展開を始めています。
――メインターゲットになりそうな銭湯やサウナ施設でチルアウトが注目されています。
20年にテストの一環として、銭湯やサウナ施設の中で、製品を販売したり試供品を提供したりしました。すると、来ていただいた方から非常に好評をいただき、こうした温浴施設とチルアウトとのマッチングが良いことが分かりました。ここから各施設と一緒にプロモーションを展開しています。
特に大きかったのが、サウナでいわゆるインフルエンサーと呼ばれる方たちがSNSに投稿することで、業界を通じて全国的に広がっていった点ですね。今では日本中の銭湯やサウナ施設がチルアウトを置いてくださっています。
――20年というとまさにコロナ禍初年度だと思います。働き方ががらっと変わり、これが今日のサウナブームにもつながっています。コロナ禍のチルアウトへの影響はどうだったのでしょうか。
まさに20年から22年の中で、事業自体が10倍ほど成長している状況です。多くの要因があると思いますが、一つがコロナ禍で在宅時間が増えたことです。今まではずっと出社して働いて、帰って家で寝るといった生活様式が一般的でした。家の中にいる時間が増えたことで、例えば良い枕を買おうとか、少しでもリラックスできる飲み物を買おうといったように、室内空間をより良いものにしていこうとする形で人のマインドセットが変わったと捉えています。
サウナも同様で、ずっと家の中にいるとどうしても落ち着きません。自分から能動的にリラックスしたいという需要から、サウナや銭湯に行って「整う」といったように、消費者のマインドが変わったと思います。
――2年で10倍の成長ですか。サウナは若年層に人気のイメージがありますが、チルアウトの主要購買層はどんな感じなのでしょうか。
20代から30代がわれわれの今のコアな購入層になっています。続いて40代という形で続いています。20代が一番多く、30代、40代と続く形ですね。実は「チル」や「チルアウト」という言葉は、「チルい」といったような形で若者の間で使われている言葉になっています。
――「チルい」は、21年の「今年の新語」で大賞を取っていますね。
この製品自体が伝えたい「落ち着く」とか「安らぐ」といったブランドを本質的に理解していただける言葉として、「チルアウト」という製品名にしています。20代の若者に刺さる言葉を製品名にしたことで、その言葉を理解していただける方たちから実際にトライアルしていただいています。
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