東急歌舞伎町タワー、開業9カ月でどんなことが見えてきた?:2023年、話題になった「あれ」どうなった?(4/4 ページ)
4月に東京・新宿に開業した「東急歌舞伎町タワー」は少し変わった複合施設だ。エンタメとホテルに特化しており、オフィスや高級ブランドは入っていない。ちょっと変わった業態の9カ月の軌跡について、運営するTSTエンタテイメントの木村社長に取材した。
「常に走り続けていないとこのタワーはダメ」
東急歌舞伎町タワーを継続的に盛り上げるためにどうすべきか。木村社長は一般的な商業施設と比較しながら以下のように話す。
「良い悪いではないですが、一般的な商業施設で展開するイベントは『セール』が多いです。楽ではありますが季節感がないので、来館動機が弱い。東急歌舞伎町タワーで考えているのは、季節感や好きにつながるコンテンツ、イベントの展開です。夏や冬、GWなどの大型連休に家族で遊びに行きたくなるような催事を考えていきます」
新宿駅は、世界1位の乗降者数(350万人)を誇る。しかし、その全員が歌舞伎町まで足を伸ばすわけではない。駅ビル内で買い物を済ませる人もいれば、西口からオフィス街に向かう人たちもいる。1年中同じくらい人がいるように感じるが、意外と人が少ない時期もある。観光地としての側面が強く、一定数の人の増減があるのだ。
「9カ月運営してみて、9月は人が少ないことが分かりました。来年は強烈なコンテンツを用意したいと思っています。冬はクリスマスや年末年始イベントなど大きなイベントが増えてくるので、期待していますが未知数です。常に走り続けていないと、このタワーはダメ。人を集め続けることが生命線なので、毎日奔走しています」
また、木村社長は「これまでは歌舞伎町との距離が遠かった人にも来てもらいたい」と期待を込める。
歌舞伎町はディープな世界だ。繁華街にホスト街、二丁目など多様性がウリの個性的な街だ。歌舞伎町の特徴を前面に出しても、今歌舞伎町を楽しんでいる人にしか刺さらない、というのが木村社長の考えだ。普通のお客さんにも足を運んでもらい、そこに歌舞伎町らしさが相まって行く。
「歌舞伎町は少数派にも光が当たる街です。ネガティブなイメージが先行してしまっていますが、もっともっと夢やエネルギーに溢れた街にしたていきたい。夢の実現に一役買う街になっていくポテンシャルは感じています。そのために、東急歌舞伎町タワーでもさまざまな仕掛けをしていきたいです」と自信を見せる。
ここまで来館者をどう増やすか、というB2C観点での戦略を話してもらった。さらに木村社長は「B2Cが軌道に乗ると、B2Bも展開できるようになる」と、前職での経験を振り返りながら未来の可能性にも言及した。
「以前は、SHIBUYA109を運営するSHIBUYA109 エンタテイメントの社長を務めていました。コロナ禍での休館後、営業再開時にお客さんが集まっていったのが推し活や体験色の強い店舗でした。その時、『推し活に強い関心を持つ20代の若い女性が集まっている場所』をマーケティングで活用したい企業が多いことに気付いたんです」
109は商業施設で、B2Cが基盤のビジネスだ。しかし、そこに集まる特定の客が商品となり、B2B領域での可能性につながっていく。一つの大きな媒体として、特定の若い女性をターゲットにマーケティングしたい企業の出稿先になり得るのだ。
東急歌舞伎町タワーが一つの媒体として、B2B領域でのビジネス展開を進めていくにあたり、何に取り組むべきか。木村社長は「東急歌舞伎町タワーも今後、自分たちが何者なのかをマーケティングしていく必要があります。私自身は109でその経験を積んでいますが、ここでは初めて取り組むスタッフも多いです。手探りなので失敗も多いと思いますが、さまざまなことにチャレンジして学んでいってほしいです」と締めくくった。
一見、無秩序に見える東急歌舞伎町タワーは、緻密な戦略が張り巡らされた場所だった。歌舞伎町は、現時点で十分に日本の観光業を引っ張る街として存在感を示している。そんな歌舞伎町に新たな風が吹き、うまく調和していければ、また日本の風景は大きく変わるだろう。
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