豊田社長の“あの時の話”を詳しく明かそう 2023年に読まれた記事:池田直渡「週刊モータージャーナル」(4/4 ページ)
筆者が毎回サーキットに行くのは、普段はなかなかないほど長い取材時間が与えられるからだ。サーキットに行くと時間をたっぷり使って、かなり踏み込んだ話ができることがある。ましてや海外のサーキットとなれば、帰りの時間もない。その時、豊田社長が衝撃的な発言をしたことを、かなり思い切って記事にしたものが、今年の1位の記事だ。
世界ぶっちぎりでCO2削減を果たしてきた日本の自動車産業
日本の自動車産業は、日本に大きな雇用を作り、莫大な投資もしてきた自負がある。全製造業において、出荷額ベースで17.1%、設備投資額で25.9%、研究開発費で29.3%。輸出金額は17.3兆円、輸入金額は2.7兆円。全就業人口に対する就業人口は8.2%の554万人だ。その上で、01年から19年までの20年間に他国の追随を許さないマイナス23%のCO2削減の実績もあげている。
そうした過去の実績を踏まえて、マルチパスウェイでのカーボンニュートラルが現実的な選択肢であると主張しているにもかかわらず、「BEV生産台数目標値」だけで批判を浴び、日本の政府やメディアまでもが欧米に追随する。CO2削減の実績がない欧米企業は、厳しいいい方をすれば、彼らの実績はむしろマイナスであり、そうした実績ベースでみれば彼らが掲げる理想主義的将来目標は大言壮語合戦の可能性が否めない。現実に、あれから1年でBEVの生産台数の目標値はかなり怪しくなり、各社目標値を下方修正の真っ最中である。35年へのルートマップのはずが、すでに23年の段階でリストラや工場の休業さえ含むのだから推して知るべしである。
「敵は内燃機関ではなく炭素である」。これは自工会会長として豊田章男氏が繰り返し主張してきたことだ。それともテスラ並みのBEVを作って、同等に売れば、CO2を米国並に増やして良いとでもいうのだろうか?
グラフを見てほしい。EVの旗手テスラの母国米国は、20年間で自動車のCO2を9%増加させているし、EV推進を大義にしてきたフォルクスワーゲンのドイツはプラス6%。ほとんどの国はプラスか、せいぜいが横ばいに近い微減で、唯一まともに削減したのは、すでに自動車メーカーがほぼ壊滅した英国だけ。マイナス9%は他国に比べれば立派なものだがそれでも二桁に届いていない。対して日本はマイナス23%を実現したカーボンリデュースのトップランナー、ぶっちぎりである。
そんな成績が出せたのが偶然だとでも思うのだろうか? 日本の自動車メーカー各社は真剣に計画を練り、投資をし、事業に落とし込んで努力してきたからこその数字である。その努力の結晶を無視し、他所から吹き込まれた与太話で批判をされれば、この実績が気に入らないならどうぞご勝手に。という気分になるのは極めてよく分かる。
筆者は豊田氏の語りの中に、かなりの絶望を感じた。そしてそれが第2位の記事、豊田章男社長の退任のインサイドストーリーにつながっていくのである。
さて、そんなわけで、ITmedia ビジネスオンラインの本年分の連載はこの記事で締めることになる。1年間のお付き合いに心より感謝を申し述べて筆を置きたい。なお編集部は、元旦用に新年特別記事を書けというので、筆者はもう1本年内に書かねばならない。皆さまにお目に掛かるのは元旦の予定である。良いお年をお送りください。
1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(カー・マガジン、オートメンテナンス、オートカー・ジャパン)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミュニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。
以後、編集プロダクション、グラニテを設立し、クルマのメカニズムと開発思想や社会情勢の結びつきに着目して執筆活動を行う他、YouTubeチャンネル「全部クルマのハナシ」を運営。コメント欄やSNSなどで見かけた気に入った質問には、noteで回答も行っている。
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