「無料で通い放題」のカラクリは? 相次ぐ脱毛サロン倒産、その“詐欺的”なカネの流れ:古田拓也「今さら聞けないお金とビジネス」(1/2 ページ)
駅やテレビといった権威性のあるメディアや有名人を起用することで女性の若年層をターゲットにする脱毛サロン業界。足元では、SNSを中心に、お試し施術で高額なギフト券をプレゼントするという趣旨の広告展開も流行している。しかし、その内実は「美容版ポンジスキーム」とよんでもいいほどの、ずさんな内容であると言わざるを得ない。
2023年の脱毛サロン業界では倒産が急増している。帝国データバンクによれば、23年9月までに、脱毛サロンによる負債総額1000万円を超える破産事例が9件確認されている。今月15日には新たに「銀座カラー」が破産し、過去最大規模だとして話題になった。
TikTokやInstagramといったSNSでアメリカンスタイルの広告展開を推進していたウルフクリニックや、エステ脱毛を提供し、全身脱毛通い放題のプランで知られていたシースリー、脱毛ラボなども名を連ねており、大規模かつ有名なサロンの倒産事例が相次ぐ。
渡辺直美氏を起用して積極的に広告展開を行っていたキレイモも22年に従業員への給与未払いトラブルや顧客との返金トラブルが相次いだ末、23年にミュゼプラチナムに店舗譲渡を行った。旧来の顧客と締結した永年無償プランも事実上打ち切りとなるなど、譲渡後も顧客の納得を重要視されているかには疑問が残る。
駅やテレビといった権威性のあるメディアや有名人を起用することで女性の若年層をターゲットにする脱毛サロン業界。足元では、SNSを中心に、お試し施術で高額なギフト券をプレゼントするという趣旨の広告展開も流行している。しかし、その内実は「美容版ポンジスキーム」とよんでもいいほどの、ずさんな内容であると言わざるを得ない。
「無料で通い放題」 その“詐欺的”な仕組み
そもそもポンジスキームは、新たな投資家からの資金で既存投資家へ高額な配当を支払う詐欺的な投資計画をいい、最終的には持続不可能となって崩壊するスキームだ。
これを美容版ポンジスキームというのであれば「新規顧客からの前払い金を前提に、既存の顧客に対し、高額なギフト券や無料での通い放題サービスを提供する」ものだといえるだろう。末期には徐々に顧客を獲得するための広告費に多額の予算が投じられ、既存顧客へのサービスや、時には従業員への給与すらも広告費に回すこともある。新規の顧客が得られなくなったら、倒産するのみだ。
元凶は、顧客からの前払い金に依存したビジネスモデルにある。サロンが提供する前払いプランは、顧客にとっては初期費用が高いものの、長期にわたるサービス提供を約束する。しかし、この資金が運営資金として使われると、サロンが倒産した際には顧客はサービスを受けられず、支払った対価に見合うサービスを回収できないリスクが生じる。
顧客が支払った代金のうち、まだサービスを受けてない部分についてはサロン側が「負債」として認識すべき金額となる。銀座カラーが58億円にも上る負債総額で破産したのも、お金の貸し手は「銀行」ではなく、一般顧客が「貸した」お金だからこそ成し得た業だ。
銀行の融資にあたっては、プロの銀行員が倒産するリスクや既存の負債状況などを厳格にチェックして融資稟議を行うが、一般顧客はそのような情報をチェックするすべもない。顧客としても「お金を貸した」という認識がないまま代金を支払うケースも少なくないだろう。
この問題に対して、業界内外からは規制の必要性が指摘されている。顧客の前払い金を保護するための分別管理、透明な財務報告、そして顧客保護を目的とした法的枠組みの整備が求められている。消費者保護団体や業界団体も、不正行為や不当な商慣習に対する啓発活動を強化し、消費者の意識を高める努力が必要だ。
関連記事
- “サウナブーム”終焉か? 「タピオカブーム衰退」とのある共通点
ブームの渦中にあったサウナ市場も、今やその過熱ぶりが冷めつつあるかもしれない。その背景には、消費者の健康観念の変化、経済情勢の影響、そしてブームによる競争の激化が挙げられる。 - ブックオフ、まさかの「V字回復」 本はどんどん売れなくなっているのに、なぜ?
ブックオフは2000年代前半は積極出店によって大きな成長が続いたものの、10年代に入って以降はメルカリなどオンラインでのリユース事業が成長した影響を受け、業績は停滞していました。しかしながら、10年代の後半から、業績は再び成長を見せ始めています。古書を含む本はどんどん売れなくなっているのに、なぜ再成長しているのでしょうか。 - 孫正義氏の「人生の汚点」 WeWorkに100億ドル投資の「判断ミス」はなぜ起きたか
世界各地でシェアオフィスを提供するWeWork。ソフトバンクグループの孫正義氏は計100億ドルほどを投じたが、相次ぐ不祥事と無謀なビジネスモデルによって、同社の経営は風前のともしび状態だ。孫氏自身も「人生の汚点」と語る判断ミスはなぜ起きたのか。 - 「時価総額500億円消失」 “ウマ娘バブル”終了のサイバーエージェントが「実は心配不要」な理由
サイバーエージェントの業績に大きなブレーキがかかった。最新の決算では『ウマ娘 プリティーダービー』におけるブームの頭打ちが鮮明に。市場内外からの厳しい評価にさらされているが、筆者は心配不要だと考える。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.