「無料で通い放題」のカラクリは? 相次ぐ脱毛サロン倒産、その“詐欺的”なカネの流れ:古田拓也「今さら聞けないお金とビジネス」(2/2 ページ)
駅やテレビといった権威性のあるメディアや有名人を起用することで女性の若年層をターゲットにする脱毛サロン業界。足元では、SNSを中心に、お試し施術で高額なギフト券をプレゼントするという趣旨の広告展開も流行している。しかし、その内実は「美容版ポンジスキーム」とよんでもいいほどの、ずさんな内容であると言わざるを得ない。
「分別管理」が必要?
分別管理とは、かつて顧客の預金を別の用途に流用する不祥事が相次いだ金融業界でいち早く整備された規制である。金融機関や決済企業などを中心に、顧客から預かった資産については、企業の運転資金と分けて管理する「分別管理」を行うことが義務付けられている。
そのため、仮に企業が倒産した際にも、分別管理が行われている顧客財産は滞りなく返金ができる仕組みとなっている。分別管理という仕組みは、顧客の信頼を失いかけていた金融機関の信頼性を回復させ、今日の業界を構築するために不可欠な制度となっている。
一方で、脱毛サロンなどの業界では、基本的に前払いの資金について分別管理などの厳格な規制が不足しているため、顧客が払い込んだ金額がサロンの運転資金として使用される危険性が高い。
そのため、脱毛サロン業界における前払いプランに対しても、金融業界の分別管理のような規制の導入が求められる。これにより、サロンが倒産しても顧客の前払い金は保護され、サービスを受けられなかった場合の返金が可能になる。これは消費者保護の観点から極めて重要であり、業界の信頼性を高め、持続可能なビジネスモデルの構築にも寄与する。
仮に分別管理を厳格化すれば、お試しでプランを契約するだけで数万円のギフト券をもらえなくなるかもしれないし、今のような無料で永久に通い放題といったプランは提供されなくなるかもしれない。
しかし、そのような過度な見返りは、まさにポンジスキームでいう「年利100%の未公開株」のうたい文句と同じだ。払った金額よりも過大なサービスが受けられるのは、それが顧客自身のお金や将来の被害者のお金でできているからだ。消費者の権利を保護し、企業に対しても責任ある運営を促すためには、分別管理を求めることで持続可能な環境を構築することが急務となる。
顧客にも「貸し手」の自覚が必要
顧客は、脱毛サロンのプランを選択するにあたって、前払いが必要なものには特に慎重な判断が求められる。サロンの評判、財務状況、利用条件を事前に確認し、不透明な運営を行っている可能性のあるサロンは避けるべきだ。そして、多少割高であっても、施術ごとに支払うプランがあれば、それを選択することでリスクを軽減できる。消費者団体やオンラインプラットフォームを通じて、サロンの評価や口コミを参考にすることも有効だ。
広告に有名なタレントを起用している、都内の一等地にクリニックがある……といった要素はほとんど参考にならない。知人にお金を貸してほしいと言われたら慎重になる者も、赤の他人のクリニックには平気で数十万円を前払いして貸してしまうというのも事実だ。
そこで、国や関連団体は、脱毛サロン業界に対する厳格な規制と監視体制を確立する必要があるだろう。これには、前払い金の使用に関する明確なガイドラインの設定、サロンの財務報告の義務化、消費者保護のための法的枠組みの強化が含まれる。また、被害者の中には金融リテラシーに乏しい若年層も少なくない。業界団体を通じて、前払金の残高に応じた預金保険機構のような仕組みも必要だろう。業界全体の透明性と公正性を高めることが必要になる。
筆者プロフィール:古田拓也 カンバンクラウドCEO
1級FP技能士・FP技能士センター正会員。中央大学卒業後、フィンテックベンチャーにて証券会社の設立や事業会社向けサービス構築を手がけたのち、2022年4月に広告枠のマーケットプレイスを展開するカンバンクラウド株式会社を設立。CEOとしてビジネスモデル構築や財務等を手がける。Twitterはこちら
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