「株主優待」人気に陰り 新NISAの人気銘柄はどう変化?:古田拓也「今更聞けないお金とビジネス」(2/2 ページ)
大手ネット証券会社が公表するNISA国内株式ランキングで上位に挙がる企業に変化が生じている。従来ランキングの上位に位置していた日本マクドナルドホールディングスや、吉野家ホールディングスといった、食事券などの株主優待を中心とした「優待銘柄」が上位に上がらなくなってきているのだ。
「配当に集約」の姿勢が重要?
しかし、同社の調査はその結果と同時に、優待廃止と同時に増配を公表した企業ではリターンの低下幅は小さくなる可能性も示唆している。
実際に、JTが23年末で株主優待を廃止し、株主還元を配当に集約すると23年2月に発表した際は、個人投資家の間で失望の声もみられた。JTの株主優待が冷凍うどんなどで有名な子会社「テーブルマーク」の製品であったこともあり、いわゆる「優待族」の売りを誘ったことで株価は一時的にマイナスに振れた。しかし、その後はすぐさまプラス圏に反転し、それ以降も当時は2700円程度であった株価は直近で3700円程度まで右肩上がりに推移している。
JTが優待廃止でも大きな株価の下落を招かなかった理由の一つが「市場との丁寧な対話」にあるだろう。優待廃止を告知するお知らせに「株主の皆さまへの公平な利益還元の在り方という観点から慎重に検討を重ねました結果、配当等による利益還元に集約すること」と明記したことで、経営状況悪化によるものではなく、実質的な株主還元の総量は変わらないことをJTは伝えた。
年金ファンドや投資信託の運用会社にとって、株主優待シーズンは「憂鬱」なイベントだ。株主優待は機関投資家にも分け隔てなく送付されるためだ。幅広い銘柄に多くの資金を投じる機関投資家のオフィスは、優待シーズンになると米や野菜、ジュース、QUOカードなどで埋め尽くされる。このうち、QUOカードのように換価が容易な優待は投資信託の財産として計上されるが、換金が難しい生鮮食品などはやむをえず会社側で処分したり従業員に配布したりすることになる。
つまり、優待銘柄とは、運用金額が大きい投資家にとって運用とは関係ない換金業務で時間が取られるだけでなく、換金できない優待については最終的に投資信託を運用する個人投資家への還元が乏しくなることにつながる。JTのように、配当金への還元集約がより公平と考える企業が増えることも納得だ。
そもそも、個人投資家にとっても、自分があまり好きでもない商品も送られてくる可能性がある株主優待よりも、配当金で現金支給してもらう方が便利ではないか。そのお金で自分の好きな商品を購入でき、また再投資に回すことができる。
上場企業と「新NISA」の付き合い方
企業としては、新NISAが始まるからといって安易な株主優待の導入や拡充を行う必要はなさそうだ。むしろ、それらを行うと機関投資家や個人投資家から避けられやすくなる可能性すらある。
新NISAの需要を捉えるという文脈でも、公平な利益配分の観点でも、今後は配当金を中心とした株主還元が求められてくることになるだろう。
新NISA制度の導入に伴い安心して個人投資家が資金を投じる上で、透明性の向上と情報開示を充実させる必要があるだろう。これには、財務状況、業績、戦略、リスクに関する詳細な情報の提供が含まれる。
冒頭のランキングでは、永守重信氏が率いるニデックや北尾吉孝氏が率いるSBIホールディングス、豊田章男氏が代表取締役会長を務めるトヨタなど「経営者の顔が見える企業」も上位にランクインしている。長期的な成長戦略やイノベーションへの経営層のリーダーシップも、会社の看板と同じか、それ以上に重要ということになるだろう。
新NISAの利用者が大手、高配当、有名企業を好むと考えられる理由は、リスク低減と安定したリターンを求める傾向にありそうだ。日本の家計貯蓄の大半は長らく、リスクの小さい「預金」であった。その部分を投資に回すとすれば、看板(ブランド)・ヒト(リーダーシップ)・リターン(配当)の三要素をもって信頼できる企業が特に魅力的となりそうだ。
企業が上手に新NISAと付き合う上では、将来性だけでなく施策の持続可能性や予測可能性にも配慮した誠実な対話と情報開示の姿勢が重要となるだろう。
筆者プロフィール:古田拓也 カンバンクラウドCEO
1級FP技能士・FP技能士センター正会員。中央大学卒業後、フィンテックベンチャーにて証券会社の設立や事業会社向けサービス構築を手がけたのち、2022年4月に広告枠のマーケットプレイスを展開するカンバンクラウド株式会社を設立。CEOとしてビジネスモデル構築や財務等を手がける。Twitterはこちら
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