萩本欽一さんに学んだ「良い会社の作り方」 浅井企画の一時代を築いたマネジャーのプロが語る軌跡:異才を見いだす「育てるマネジメント」(2/3 ページ)
ENPASSの川岸咨鴻(かわぎし・ことひろ)名誉会長は、藤圭子のマネジャーなどを経験した後、コント55号など数々の人気タレントを輩出してきた芸能プロダクション「浅井企画」で45年間、専務取締役を務めた。これまでの道のりの中で、どのようにタレントたちと向き合い、才能が花開く組織を作ってきたのか。萩本欽一さんに学んだ「良い会社の作り方」とは?
人生の転機 「肩書一つで手のひらを返す」人も
佐藤氏: 全く面識のない人から!
川岸氏: 昔はね、そういうことも多かったんですよ。どこかで僕のことを見てくれていた人だったのかな。その縁で、当時すでに大人気だった歌手、藤圭子のマネジャーになりました。それまでは僕に振り向きもしなかったテレビ局の人たちが、新しい肩書一つで手のひらを返すようにすり寄ってきましたね。
川岸氏: ただ、藤圭子を育てたと言われる石坂まさをという作詞家がいて、その人がすごい変わり者で。例えば、夜中に事務所にフラッと現れて、金庫を開けてお金を握りしめて、街を歩いている人に適当に配るんです。そんな様子を見て、長く一緒にやるのは難しいとは思っていました。
とはいえ、藤圭子のマネジャーになったことは、僕の人生の転機だったと思います。
佐藤氏: その後、萩本欽一さんが所属する芸棒事務所、浅井企画に転職されたんですよね。
川岸氏: そう。当時から浅井企画に所属していた欽ちゃんこと萩本欽一さんがね、『スター誕生』という番組で、音楽をやりたい女の子を採用したんです。だけど当時の浅井企画には、音楽に通じているマネジャーがいなかった。「誰かいないか」と探しているとき、僕に声がかかった、と。
佐藤氏: それから川岸さんは、浅井企画で小堺一機さん、関根勤さん、飯尾和樹さん、キャイ〜ンといった人気タレントを続々と世に送り出されますが、浅井企画はどんな会社だったのでしょうか。
浅井企画が“良い会社”なのは、萩本欽一さんの影響
川岸氏: 勤め始めてから辞めるまで、変わらず情に厚い人が多くて良い会社でしたよ。それは、欽ちゃんの影響が大きいかもしれないですね。
佐藤氏: 萩本欽一さんの影響ですか?
川岸氏: 70年代の後半に、浅井企画に所属する人気絶頂のアイドルが、スケジュールを全てすっぽかして恋人と一緒に米国に逃避行する、という大スキャンダルがあったんですよ。その対応で、僕と社長は連日関係各所に頭を下げて回っていました。
その様子を見た欽ちゃんが、今まで活動に規制ができるからと断ってきたCMを「これで社長が休めるようになるなら」と何本も契約して売り上げを作ってくれて。そんな欽ちゃんの情の厚さに、あとに続く人たちも影響されているんじゃないかな。
ちなみに、その大スキャンダルを起こしたアイドルに対して社長は「米国で大変だろう」と言ってまとまったお金を渡していました。普通のプロダクションだとありえないことだと思うんだけれども、そういう人が多いんです。だから、長く勤める人が多かった。給料も良かったしね(笑)。
佐藤氏: 萩本欽一さんや社長を初め、人と人との関わりを大事にする人が多いから、浅井企画はどんどん拡大していったのですね。現在の浅井企画は、多くの人気タレントを抱える芸能事務所ですが、入社した当時はどうだったのですか。
川岸氏: 当時は売れている人はそんなにいなくてね。タレントだけでなく、社員も社長の親戚や知り合いがほとんど。元洗濯屋とか、元配達屋とか、業界の知識や経験もなく入ってきた人ばかりでした。マネジャーらしいマネジャーがいなかったんですよ。
佐藤氏: なるほど。でも、川岸さんがマネジャーを始めた頃は、舞台や映画ではなく「テレビタレント」が少しずつ盛り上がってきたころですよね。浅井企画だけでなく、他の芸能事務所も同じような状況だったのではないですか?
川岸氏: 渡辺プロダクションだけはいろんなことが整っていたけど、他はあまり変わらなかったかもしれないですね。渡辺プロダクションを追いかけて、ホリプロやサンミュージックが出てきた時代ですよ。
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