プロは「上手なウソ」をつく 関根勤や小堺一機を世に出した、大御所マネジャーの仕事術:異才を見いだす「育てるマネジメント」(1/4 ページ)
「上手な嘘をつけるのが良いマネジャーだ」――ENPASSの川岸咨鴻(かわぎし・ことひろ)名誉会長は、芸能マネジャーとして浅井企画で関根勤、小堺一機、柳沢慎吾、竹中直人、飯尾和樹といった人気タレントを続々と見出し、世に送り出してきた。本記事では川岸氏が身をもって体感した「良いマネジャーとは何か」「仕事はどう進めるべきか」について聞き、そのマネジメント論の本質に迫る。
連載:異才を見いだす「育てるマネジメント」
働かないおじさん、管理職にならない若者……現代は、責任を負い、才能を育てるマネジャーへのイメージが著しく下落している。そんな中、不確実性が高い芸能界やアスリートの世界でも結果を残す名物マネジャーはどのようなことを意識してマネジメントを行っているのか――。多くのエンターテインメントビジネスのプロデュースを手掛けるFIREBUGの佐藤詳悟CEOが、今気になるマネジャーを訪ね、才能を発掘する方法、育てる方法、軌道にのった後のマネジメントの在り方を議論する。
吉本興業でナインティナイン、ロンドンブーツ1号2号、ロバートのマネジャーを務めた後、FIREBUGを立ち上げた佐藤詳悟氏。FIREBUGでは、才能を拡張させる“タレントエンパワーメントパートナー”として、多くのタレントのプロデュース戦略を手掛け、企業向けにはタレントを軸としたコンテンツを中心にマーケティングソリューションを提供している。
本連載では、マネジメントのプロである佐藤氏が、今会いたい“敏腕マネジャー”と対談し、メンバーのモチベーションを上げたり、才能を開花させたりするヒントを探っていく。
第5回目となる今回の対談相手は、エンターテインメント事業を手掛けるENPASSの名誉会長の川岸咨鴻(かわぎし・ことひろ)氏。藤圭子のマネジャーなどを経験した後、コント55号など数々の人気タレントを輩出してきた芸能プロダクション「浅井企画」で45年間、専務取締役を務めた。
関根勤、小堺一機、柳沢慎吾、竹中直人、飯尾和樹といった人気タレントを続々と見出し、世に送り出してきた川岸氏。記事の前編では、テレビ放送が始まったばかりの日本でどのようにキャリアを積み、どのようにタレントたちと向き合ってきたかを聞いた。後編となる本記事では、川岸氏が身をもって体感した「良いマネジャーとは何か」「仕事はどう進めるべきか」について聞き、そのマネジメント論の本質に迫る。
破天荒な人を見て「嫌なことほど先にやったほうがよい」と気付いた
佐藤詳悟氏(以下、佐藤氏): 川岸さんが浅井企画に入社した頃は、マネジャーのノウハウのある人が誰もいなかったとおっしゃっていました。その状態から、どう組織作りをしていったのですか。
川岸咨鴻氏(以下、川岸氏): 本当に何もなかったから、まずは保険制度など会社として基本的なところから進めていきました。でも、決まりやルールは最低限のものくらい。浅井社長が「売り上げをあげてくれるなら、やり方はお任せする」という人だったので、自由にやらせてもらっていましたね。40年以上勤めていたけど、会議すらした覚えがないです。
佐藤氏: 自由に任せてもらえるのはいいですね。でも、何をしたらいいのか、自分のやっていることが正解なのか不安になることも多いのでは。
川岸氏: (前編で)石坂まさをさんって破天荒な作詞家の話をしたでしょう。藤圭子という大スターが在籍しているお陰で当時の事務所は安泰だったけど、突拍子もないことをしたり、嫌なことを後回しにしたりする彼のやり方では、会社を長続きさせるのは難しいと思った。
ある意味、彼を見ていたから「こうしたら会社は成長するんじゃないか」というのが分かったのかもしれないですね。
例えば、僕はもともと営業的なことは大嫌いだった。でも、嫌なことほど先にやったほうがよいと分かっていたから、よく新聞記者が言うような“夜討ち朝駆け”で動いていましたよ。タレントがスキャンダルを起こすと、素知らぬ顔をしたり、「自分だけでも助かりたい」と逃げたりするマネジャーがいるんだけど、僕は絶対しないと決めていました。
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