AIが仕事を「奪ってくれる」 給与も稼ぐ“社員の分身”を生んだオルツCEOの熱意:新春トップインタビュー 〜ゲームチェンジャーを追う〜(3/3 ページ)
自分の分身が業務を代行してくれる――。そんな夢物語が現実のものとなりつつある。AI開発のオルツは社員全員の「デジタルクローン」を作製。クローンの働きに応じて社員本人に給与を支給する取り組みも始めた。AIクローン社員は、従来の仕事の在り方をどう変えるのか。
クローン社員が給与も稼ぐ?
同社は2023年12月から、世界でも例のない社内制度を導入した。それは、社員のAIクローンに給与を支給することだ。
ある社員のAIクローンが同僚や顧客など、社内外からオンライン上で問い合わせを受け、それに対して回答を返した場合、これを1セッションとカウントし、およそ10円を社員本人に支払う――という仕組みだ。AIクローンの活動量が多い社員だと、月間で2000セッション近くは簡単に到達するという。そうすれば、社員本人は約2万円を受け取れるというわけだ。
「社内外から引く手あまたの社員は、そのクローン社員も社内外から人気が高い。社員本人が忙しくリアルに会話する時間がないので、クローンに聞いてみたい、といった形で活用件数が増えていく」(米倉CEO)
例えば社内からのクローン社員への問い合わせには、業務上のやり取りのほかに、「自分のことをどう思っていますか」などと、社員本人には直接聞きづらいような評価にまつわる質問などが多いという。「なぜ私は採用されたのですか」「自分に求めている役割は何ですか」などといった質問も。
クローン社員の回答が、リアルな会話のネタになる。「社員同士のコミュニケーションが広がり、すごく大事なことだと思う」と米倉CEOは話す。
2014年11月に設立したオルツ。同社がAIクローンを作製することで目指すのは「人の非生産的労働からの解放」だ。もともとサラリーマン勤務の経験がある米倉CEOは、非生産的な仕事の多さを実感したという。
「非創造的で生産性がない仕事はやり続けると罠(わな)に陥ってしまい、出口が見えなくなってしまう」(米倉CEO)
「創造性の高い仕事だけに集中する」という思いから25歳で起業。コンテンツビジネスのプロデューサーなどを経て立ち上げたのがオルツだという。
社員一人一人のAIクローンの作製・運用を始めたのは23年の秋から。現在は「実験段階」と位置づけている。採用の一次面接や営業分野での事前コミュニケーションで使用し「リアルなコミュニケーションの質を高める」といった役割を担う。
しかし、上長が行うような承認業務をAIクローンが代行する未来も、そう遠くはないと米倉CEOは話す。
多くの業務がAIクローンに代行された後、リアルな人間には一体、どのような役割が求められるのだろうか。(後編に続く)
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