生活苦は「社会保険料」のせいなのか? 負担率から本当の原因を考える(3/3 ページ)
最近「生活が苦しい」とSNSや街の声としてテレビで聞くようになりました。その要因の一つとして「社会保険料」が挙げられていますが、本当に社会保険料が生活苦をつくりだしているのでしょうか? 負担率から真の要因について考えていきます。
社会保険料の増額よりも給与が上がらないことが問題
このように、フリーランスの中にも少額の社会保険料を支払い、もしもの事態に備える人もいます。確かに、社会保険料は年々上がっていますが、5年前と比較して1リットルあたり140円から162円にアップしたガソリン代や、年々アップする食品などと比較するとその値上がり幅は少額に抑えられているように思われます。
生活が苦しいのは、社会保険料の負担の増額よりも物価などの上昇に賃金アップが追い付いていないのが全てです。厚生労働省が公開する「2022(令和4)年 国民生活基礎調査の概況」によると、22年時点における日本全体の平均世帯年収における中央値は423万円 となっています。18年時点の中央値437万円よりも下がっているのです。
23年度の平均年収はアップしましたが、それは高収入を得ている一部の会社員が平均を押し上げているだけです。中央値は上がるどころか下がっているのです。
厚生労働省の労働経済白書「令和5年度版労働経済の分析」によると、「企業が利益に対して労働者にどのくらい割合で給与を支払ったか」を指す労働分配率も年々下がっています。2000年以前の日本は、米国、ドイツ、フランス、英国の先進5カ国の中で最も労働分配率が高かった国でしたが、今では米国と最下位を争っている状況です。
企業の利益は、労働者への分配ではなく企業内の内部留保という形で蓄えられています。実際に、財務省の「法人企業統計」(年報)」によれば、1996年に約150兆円だった内部留保額は、2021年に約500兆円に達しています。この原因としては景気など先行きの不透明感、日本型の年功序列の賃金制度が崩れつつあり、今まで高い給与をもらってきた40代以上の中高年層の給与が一部の管理職を除き、もらえなくなってきつつあるなどさまざまな要因があると思われます。
ここまで、社会保険料の増額が生活の厳しさの主因かどうかについて考察してきました。確かに社会保険料は上がっていますが、それよりも物価や生活費の上昇に賃金アップが追い付いていないことが、生活苦に大きな影響を与えていると考えられます。
日本の経済状況や労働分配率の変化を見ても、企業の利益が増えても労働者への給与分配が十分でないことが浮き彫りになりました。社会保険料の増額に目が行きがちかもしれませんが、経済全体の構造的な課題を考える必要があることが見えてくるかと思います。
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