AIで、脳の限界を超えろ
IQテストのスコアは、20世紀を通じて上昇したことが知られています。1932年以降その平均が10年ごとに約3〜5ポイント上昇してきたことは、発見した研究者の名前をとって「フリン効果」と呼ばれています。そもそもIQスコアは、平均が100、標準偏差が15と規格化されているので、平均そのものが3ポイントから5ポイント上昇するというのは大きな変化です。
ところが欧米での最近の研究では、このスコアが21世紀に入り下降している(逆フリン効果)という現象が報告されています(Elizabeth M. Dworak氏らによる論文”Looking for Flynn effects in a recent online U.S. adult sample”など)。
この現象の原因について、教育やビデオゲームなどのテクノロジーの影響などの仮説が提案されていますが、決定打はありません。個人的には、脳単独での情報処理能力、思考能力がその限界に達しつつあることを意味するのかもしれないと考えています。
人間がこの限界を超え、知的能力をさらに拡張するためには、生成AIといったツールを利用することが極めて重要です。生成AIの利用により、個人、また集団での思考を強化する新たな可能性が広がっています。
AIとの協働で人間の創造力が拡大
一般に、人間は創造力においてAIを凌ぐとされていますが、最近の研究ではその線引きが曖昧になってきています。むしろ、AIをうまく使うことで、人間の創造力が発展すると言えるでしょう。
創造力(クリエイティビティ)が既存のアイデアの組み合わせであるならば、生成AIの持つ多様な知識と情報を組み合わせる能力は、新しい創造性の源泉となり得ます。また、既述の「ハルシネーション」(質問に対して、誤りを含む内容を返答する現象)は、予期せぬアイデアを生む可能性があり、創造性ではむしろ利点になるのです。
さらに、アイデア出しやブレインストーミングに関する研究では、アイデアの評価や判断を保留しながら、多くのアイデアを生み出すことでパフォーマンスを向上させることが指摘されています。量を出すならAIはお手のものです。
実際、ウォートンの研究(Ideas are Dimes a Dozen: Large Language Models for Idea Generation in Innovation)では、AIによるビジネスアイデアが人間のアイデアより平均的にも、またトップクラスのアイデアに絞ってもクオリティーが高かった(トップクラスのアイデア40のうち、35がChatGPTのものだった)ことが指摘されていて、AIと人間との協働による創造力の拡大が期待されています。
最後に
過去のテクノロジー、例えば機械やコンピュータが人間の能力を拡張してきたように、ChatGPTに代表される生成AIは人の思考能力をさらに拡張していくことが期待されます。これは「脳+ChatGPT」をあたかも拡張した脳のように捉えることにほかなりません。ビジネスのほとんどの活動が、思考も含め、言語をもとに行われていることを考えると、おそらく近い将来、生成AIを使わない仕事の仕方は絶滅危惧種となるのではないでしょうか。
周囲でChatGPTを上手に生かしている人を見ると、いずれもいろいろと自ら試して、これはいける、これはいけないといった形で試行錯誤しながらChatGPTを使っています。加速度的に進むテクノベートの時代。自ら能動的に新しい技術に手を伸ばし、その使い方から学んで生きた知識にしていくという、生成AIにはできない極めて人間らしい営みが重要になりそうです。
【参考文献】Elizabeth M. Dworak, William Revelle, David M. Condon, (2023) Looking for Flynn effects in a recent online U.S. adult sample: Examining shifts within the SAPA Project, Intelligence, Volume 98
Girotra, K., Meincke, L., Terwiesch, C., & Ulrich, K. T. (2023). Ideas are dimes a dozen: Large language models for idea generation in innovation. Available at SSRN 4526071.
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