活躍する若手は「何のため」に働いているのか 「会社のため」ではない(3/4 ページ)
これまでのような「社内のキャリアの上昇」という誘因だけでは、従業員のポジティブな関わりが引き出しにくくなっている。こうした若手に対し、どのように関わるべきなのか。
幸せな活躍につながるソーシャル・エンゲージメント
ソーシャル・エンゲージメントが高いことが、働くことにどのような影響を持っているのか。そのことを定量的に確認してみると、幸せな活躍と非常に強いポジティブな関係が見られた。ソーシャル・エンゲージメントが高い層と低い層の2層に分けて図示してみると、高い層の方が低い層より幸せな活躍層の割合が2.9倍と大きな差が見られ、基本的な属性を統制した分析でも強い影響関係が見られた。これは定性インタビューでの発見を裏付ける結果だ。
ではなぜ、社会へのエンゲージメントが、仕事における幸せな活躍に強くひも付いているのだろうか。詳細を分析してみれば、2つの要素から説明が可能であることが見えてきた。
まず、ソーシャル・エンゲージメントは「ジョブ・クラフティング」への強い影響が見られた。ジョブ・クラフティング(Job Crafting)とは、従業員が自らの職務内容や職務のフレームを再構築し、それをより意味があるものに変える行為のことだ(注3) 。ジョブ・クラフティングは、従業員の仕事への満足度やエンゲージメントを高め、パフォーマンスや自己効力感を向上させる効果が示されてきたが(注4)、ソーシャル・エンゲージメントはそのジョブ・クラフティングへのポジティブな影響が認められた。
(注3)ジョブ・クラフティング:仕事の自律的再創造に向けた理論的・実践的アプローチ 単行本 - 2023/3/18 高尾 義明 (編集), 森永 雄太
(注4)Frederick, Donald E., and Tyler J. VanderWeele. "Longitudinal meta-analysis of job crafting shows positive association with work engagement." Cogent Psychology 7.1 (2020): 1746733.
また、同時にソーシャル・エンゲージメントが高い就業者の特徴として見られたのが、日常的な思考における視野が広いことだ。ソーシャル・エンゲージメントが高い者は、例えば、人を勝ち組と負け組とに分けられない、社会貢献とビジネスでの利益は両立できるといった「脱・二分法」的な考え方や、長い時間軸で物事を考える思考の「時間軸の長さ」が顕著に高かった。また、一つに見える現実も人によって見え方が異なるという「メタ視点」の認識を持っていることも傾向として見られた。
視野や思考の奥行や高さ、幅の広さは、当然ながら仕事を行う上でさまざまな良い影響を与えるだろう。また、思考の広がりを通じて、「工夫の余地」を探し出し、ジョブ・クラフティングの余地が高まることも考えられる。逆に捉えれば、ソーシャル・エンゲージメントが低い者は、こうした視野が狭い傾向にある。因果関係を把握できるものではないが、一見して社会への志向性と仕事のパフォーマンスとの間には、このような想像力とパースペクティブの広さ・深さが大きく関連していそうだ。
補足すれば、このソーシャル・エンゲージメントの測定は、あえて「社会」という言葉を定義せずに測定している。「社会」といったものへの想像力が及ぶ範囲は人それぞれであり、一義的に規定することに意味がないと考えたためだ。
では、実際、どのような範囲を「社会」と考えているか。自分の身近な範囲しか社会として捉えられない者は、ソーシャル・エンゲージメントが低く、日本や地球規模の大きな範囲で社会を想像できている人ほど、ソーシャル・エンゲージメントが高いという傾向にある(図5)。また、ソーシャル・エンゲージメントが高い就業者は、環境への配慮行動や、人権配慮行動を行っている割合が高いこともわれわれの調査で分かっている。
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