「心から会社に貢献したい」と従業員に思わせるため、人事ができること:連載「情報戦を制す人事」(1/4 ページ)
生産性向上や離職防止といった効果が期待できる「従業員エンゲージメント」の施策。しかし、取り組み方を間違えると、従業員に対して誤ったメッセージを発信してしまいかねません。効果的に実施している企業事例や、取り組みの具体的なステップを解説します。
エンゲージメントという言葉はさまざまな場面で「つながり」や「関係性」を意味しますが、ビジネスシーンでは顧客と企業の関係性、とりわけ人事領域においては従業員が組織に対して抱く心理状態を指します。
そしてその意味は一意には定まらず、「従業員エンゲージメント」と「ワーク・エンゲージメント」に分かれるとともに、近い概念である「従業員満足」とも区別されます。資料や文脈によって、柔軟な解釈が必要です。
- 従業員エンゲージメント → 従業員の仕事/組織への自発的貢献意欲
- ワーク・エンゲージメント → 従業員の仕事に対する活力、熱意、没頭
- 従業員満足 → 従業員の仕事/組織への満足
本記事ではエンゲージメントを「従業員の仕事や組織へ自発的に貢献しようとする意欲」(従業員エンゲージメント)と定義したうえで、エンゲージメントサーベイを効果的に実施している企業事例や、エンゲージメント向上に取り組む具体的なステップについて解説します。
エンゲージメント向上のメリットとは?
エンゲージメントの向上によって、生産性向上や離職防止といったビジネス上のメリットが期待できます。また、企業が抱える人材の価値である「人的資本」の一つとして「従業員エンゲージメント」を約2割の企業が開示しています(※1)。今後情報開示の拡大が想定される中で、「従業員エンゲージメント」を向上・開示していくことも企業の優位性の発揮という意味でのメリットとなるでしょう。
(※1)「『人への投資』開示拡大 従業員満足度は企業の2割公表」/日本経済新聞
人的資本についてはコチラ
さらに、2020年以降は在宅勤務が普及したことにより、従業員の顔が見えづらくなったことで人事部門や上司がエンゲージメントの状態を把握しにくくなっています。少しでも従業員の仕事や組織への心理状態を可視化して、必要な対策を講じるために、エンゲージメントサーベイに取り組み始める企業が増えています。
エンゲージメントサーベイにおける企業の成功事例
エンゲージメントサーベイの実施目的や結果の活用方法について2つの企業の事例を紹介します。
1.大手運輸業A社
運輸業を営む企業では、中期経営計画を刷新した年に初めてエンゲージメントサーベイを実施しました。これを通じて、1on1の導入とマネジャーへの360度評価を導入する方針を決めています。
背景
エンゲージメントサーベイを実施した背景には、中期経営計画に関する従業員へのヒアリングから導き出された以下2つの仮説がありました。
仮説A
刷新された中期経営計画がどう実現されるのか多くの従業員がイメージできていない
仮説B
自身の役割が、経営計画にどうひも付いているのか多くの従業員がイメージできていない
取り組み
そこで、同社にとってのエンゲージメントを「経営計画と自身の役割に腹落ちし、仕事を通じて気力が充実しており、自社での自身の成長と経営計画への寄与を実感している状態」と定義し、40問ほどのエンゲージメントサーベイを実施しました。
結果
主要な分析結果として下記が抽出されました。
- 中期経営計画そのものや自身の貢献イメージは、仮説A・B通りネガディブな分析結果。さらに、今後注力されるはずの部門の結果が他部署と比較して悪いことが判明
- 7割の上司が「部下の相談に乗っている」と回答したことに対し、7割の従業員が「上司に相談にのってもらっていない」と回答
活用方法
経営会議での報告の結果、分析結果への対策を講じるとともに、定期的なエンゲージメントサーベイの実施が決定しました。
人事部は、上司と部下の会話回数を増やすこと、上司が部下をよりよく理解することを目的に、1on1を導入しました。また、それらの効果を上司に直接届けるための360度評価の導入も検討しています。
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