有休取れず、賃金増えず……男性の育休取得アップの裏で、見逃される5つの視点:働き方の見取り図(2/3 ページ)
男性の育休取得率が上昇機運に乗っている。このまま男性の取得率が上昇すれば、育児を巡る課題は全て解決するのか。取得率の数値目標にばかり目を奪われていると、他の有効な選択肢を見落とす可能性があると筆者は指摘する。
「男性育休100%」の理想が覆い隠す“別の選択肢”
家庭内では育休取得の実効性が問われる事態が生じている一方、職場では育休をめぐるもう一つの重大な懸念があります。育休取得がキャリア形成に及ぼす影響の問題です。
先出のグラフでは、96年度に女性の育休取得率が50%を切っているのが分かります。かつて、育休は女性にとっても取得しづらい環境でした。それが、女性のほとんどが育休を取得できるようになった一方で、指摘されるようになったのがマミートラックの問題です。
マミートラックとは、育休から職場に復帰した女性が、自分の意思に反してサポート的な立場に回されたり、負担の軽い業務をあてがわれたり、キャリアアップしづらいルートへと追い込まれることを言います。男性の育休取得が徐々に進む中で、男性版のパピートラックも問題視されつつあります。
また、育休取得によって職場を離れる期間がブランクと受け止められて昇進・昇格にマイナスの影響を及ぼす事態も懸念されます。男性の育休取得によって女性に偏っていた育児負担をシェアできるのは良いことですが、育休がキャリア形成の阻害要因になってしまう状況については、根本的になくさなければならないものです。
一方で、育休は必ずしも誰もがとらなければならないものでもありません。中には両親が近くに住んでいてサポートしてもらえる人もいますし、育児を配偶者に任せて自分は仕事に専念したいと考える人もいます。その逆で、自分は育児に専念したいという人もいますし、ベビーシッターなどに育児をできる限り任せ、夫婦とも仕事に専念することを選びたい家庭もあります。
世の中には政府目標を大きく超える男性育休取得率を目指している会社もあり、既に100%を達成している事例も見られます。それ自体は素晴らしいことですし、数字目標は分かりやすい指標なだけに大々的に掲げるとインパクトがありますが、個々の働き手の希望はそれぞれであることを踏まえると、必ずしも男性育休取得率100%が理想とも言えません。
重要なのは、家庭ごとに異なる育児と仕事に対する向き合い方の違いに合わせて選択肢が用意されていることです。性別を問わず育休取得できることはとても大切ではありますが、それが全てではありません。あくまで選択肢の一つなのです。
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