紙を扱うエプソンが、客にあえて「ペーパーレス」を勧めるワケ 社内では反発も(2/3 ページ)
DXにリモートワークと、着々と社会でペーパーレスが進む。その潮流に逆らうことなく、乗っかっているのがプリンタ大手のエプソンだ。どういう狙いがあるのか。
同社がペーパーレスに取り組む理由について、福田氏は次のように話す。
「印刷は『目的』ではなく、あくまで『手段』に過ぎません。資料を印刷することで業務の効率化やコミュニケーションを行うのが目的です。そうしたお客さまの本質的なニーズに着目して、サービスを展開しています」
社内では異論もあったというが、同社はこれまでも似たような「顧客視点」の商品開発をしてきた。代表例が、従来よりもインク容量を増やした「エコタンク」方式のインクボトルだ。従来式のインクカートリッジは高価格で容量が少ないなどの不満が挙がっていたことに着目して開発した。
リカーリングビジネスを考えれば、インクを頻繁に買い替えてもらった方が売り上げにつながる。社内でも、インク収入が減るなどの反発があったという。実際の結果はどうだったのか。
「確かに一時的に利益には影響があったかもしれません。しかし、1枚当たりのコストが減って気兼ねなく印刷できるようになり、結果的にお客さまの印刷枚数が増えました。また、これまでは価格が高いことでサードパーティー製のインクを使っていたお客さまが、当社のインクを購入いただくきっかけにもなっています」
ペーパーレスの支援では、自社の経験を踏まえた提案ができるのが強みだ。21年度から取り組みを始め、22年度は19年度比で使用した紙の量が半減。残すべき資料や“断捨離”すべきものの判断、そしてプロジェクトを推進するに当たっての勘所など、さまざまな経験がノウハウとして蓄積されている。
紙を通した環境貢献も
ペーパーレスを通した業務改革だけでなく、エプソン販売が新たな付加価値として見いだしているものの一つが「環境への配慮」だ。22年4月から東証プライム市場の上場企業に対して、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)に基づく情報開示が義務化された。少しずつではあるが消費者の環境意識も高まっており、企業にとって環境問題は避けられないテーマになりつつある。
しかし、紙や印刷が環境問題にどう貢献するのか、やや疑問に感じる。この疑問について、福田氏は「オフィスのプリンタは多くの電力を消費しており、機器の見直しによって節電や二酸化炭素の削減にもつながります」と話す。
代表的な取り組みが、レーザープリンタからインクジェットプリンタへの切り替えだ。エプソンでは22年、オフィス向けプリンタの新規販売でレーザープリンタからインクジェットプリンタへの置き換えを進め、26年を目標に全て切り替えていくと発表。レーザー式は粉のトナーを熱して紙に定着・印刷する方式であることから、予熱の必要性があり、消費電力が多い。一方、インクジェット式は消費電力が少ない特徴がある。
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