紙を扱うエプソンが、客にあえて「ペーパーレス」を勧めるワケ 社内では反発も(3/3 ページ)
DXにリモートワークと、着々と社会でペーパーレスが進む。その潮流に逆らうことなく、乗っかっているのがプリンタ大手のエプソンだ。どういう狙いがあるのか。
オフィスの出力環境に着目したコンサルティングも行っている。機器のデータを収集し、専門家が分析とレポーティングを実施。印刷枚数や電力消費量の把握などを通し、コストや環境面でより効果的な環境を提案しているという。
特に医療や自治体といった社会の根幹を担う領域から引き合いが高まっている。これらの業種は災害時などの緊急事態でも業務を継続する必要があり、電力の最適化などが求められるからだ。ある医療機関では、エプソンからの提案を受けて535台運用していたレーザープリンタを489台のインクジェットプリンタに置き換えた。あくまでシミュレーション数値ではあるが、消費電力・二酸化炭素排出量をともに年間推定で約85%を削減できる見込みだ。
紙のライフサイクルにも注目
紙の再利用にも取り組む。紙は製造に大量の水を必要とするだけでなく、購入時や廃棄時の輸送などで二酸化炭素も排出する。こうした課題に着目し、オフィスに設置して使用済みの紙から再生紙を製造できる製紙機「PaperLab(ペーパーラボ)」を展開している。
同社によると、ペーパーラボで1年間に製造できる紙の量は約7.9トン。通常、同量の紙を製造する場合は25メートルプール(360立方メートル換算)21杯分以上の水が必要だが、ペーパーラボではその1%弱・71立方メートル程度しか消費しないという。
ペーパーラボを設置しているエプソン販売の新宿オフィスでは、19年7月から22年12月までに350万枚超の再生紙を製造。新規で紙を購入する量が減少しており、22年度は20年度比で40%の83万枚に。既に導入した企業では、紙コストの削減だけでなく障害者雇用での活用なども進んでおり、さらなる拡大を目指す。
たかが紙、されど紙。今後もビジネスの場から紙が消滅する可能性はないはずで、エプソンの取り組みからはまだ工夫のしようがたくさんあるように感じる。その“白紙”に、エプソンはどんな将来を描いていくのか。
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