日本にはない「混雑しないファストフード」 シンガポールで見つけた“ささやかな”リテールDX(2/4 ページ)
筆者はシンガポール旅行で”ささやかな”リテールDXをいくつも体験した。一つ一つが画期的で想像もしていなかったわけではないが、日本国内では実現できていないものが多かった。シンガポールのリテールDXを踏まえて、顧客体験(CX)向上について考えてみたい。
伸長するEC市場、一方でリアル回帰も
「リアル店舗は、ECなどオンラインサービスに脅かされる」と言われて久しいが、実際はどうであろうか。当社の調査では、世界規模で見れば、小売業全体の2022年の市場規模は17.3兆米ドルに達し、27年までの年平均成長率は3.1%と予測している。
一方で、国内に目を向けると、国内小売市場は人口の増減に影響を受けることから、国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口」を用いて、経済産業省「商業動態統計」をベースに国内小売市場規模を予測すると、30年には114兆9770億円、22年比で約14%減となる(矢野経済研究所「2030年の小売市場に関する調査(2023年)」)。
またこの内数となるEC化については、世界各国・国内も共通して大きな進歩を遂げている。その中でも昨今はこれまであまりEC化が進んでいなかったアパレルや化粧品といった身に付けるタイプの商品、さらには鮮度や受け取りタイミングが重要な生鮮食料品での広がりが顕著といわれている。
このように購買チャネルのEC化が進むと、当然リアル店舗の今後が気になる。米国では「米国では閉鎖店舗よりも、新しく開店した数のほうが多い」とするデータや、Z世代を対象にした調査からは「Z世代は店舗でのショッピング体験を好む」ことが明らかになっている。
これだけの情報で「リアルな店舗は今後も安泰である」とは当然言えない。しかし、いくつか調査データやレポートを見ていく中から、我々が捉えるべき今後のトレンドは見えてくる。消費行動の変容から購買チャネルとしてのECは当然今後も伸びていくと予想されるが、リアルな店舗は「そこに行けば入手できる」という価値とは異なる「何か別の価値」を提供する場として重要な場所となるのではないだろうか。
- スーパーやドラッグストア(生鮮食品・飲料・食料品・日用品など):必要なモノ、興味のあるモノが自分の好みやライフスタイルにマッチしているか簡単に試すことができたり、すぐに手に入れられたりする。自身のTPOに合わせて商品選択・決済・受取りを多様化されたチャネルを通じて、日々快適に行えるといった「購買行動のQCD(Quality:品質、Cost:コスト、Delivery:納期)」にフォーカスした付加価値が求められる。
- アパレルブランドショップ、家電量販店(嗜好品や耐久財など):オンラインでの事前の情報収集段階や過去の取引から、自身にパーソナライズドされた商品選定サポートや推奨による1次購買候補の選定がなされている前提で、実店舗に来店した際にそれがシームレスに情報連携されていることによる快適な接客応対コミュニケーション、さらには新しい気付きや発見を演出するなど、「購買行動の心地よさやエンターテインメント要素」にフォーカスした付加価値が求められる。
上記、今後向かうであろう方向性は飲食店についても、日常利用のお店と特別な日のレストランなど、同じ考え方を応用できるのではないかと筆者は考える。
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