コラム
日本にはない「混雑しないファストフード」 シンガポールで見つけた“ささやかな”リテールDX(3/4 ページ)
筆者はシンガポール旅行で”ささやかな”リテールDXをいくつも体験した。一つ一つが画期的で想像もしていなかったわけではないが、日本国内では実現できていないものが多かった。シンガポールのリテールDXを踏まえて、顧客体験(CX)向上について考えてみたい。
来店顧客のCX向上、どんな方法がある?
さて本題のリテールDXによる顧客体験(CX)向上の話に戻そう。リテールDXにはさまざまなソリューションが生まれており、さまざまな整理の方法が考えられるが、ここでは「店舗に来店した顧客のCX向上」にフォーカスを当てて紹介していきたい。
大きくは、A.店内回遊の体験向上、B.注文・決済の体験向上、C.接客・応対の体験向上、さらにD.次世代店舗といった4つに分類できる。
- A.店内回遊の顧客体験向上
- AR/QRを使った商品紹介:AR(拡張現実)やQRコードを使ってアプリやWebと連携することで、限られた店頭スペースにおいて、顧客に新しい購買体験や店舗側として伝えたい情報を、より詳細に、また効果的に伝えることができる
- インストアアプリ:顧客が店舗ショッピングに利用するアプリで、商品・在庫検索などによる利便性向上や、パーソナライズされた店舗/商品情報の提供、特典オファーにより、顧客と店舗とのつながりを強化する
- スマートシェルフ/リアルタイム棚札/電子棚札:RFIDやセンサー、カメラなどの技術を用いて、棚の在庫や価格表示をリアルタイムにモニタリングおよび管理でき、店舗業務の効率化や需要に応じたダイナミックプライシングを可能とする。これにより、顧客に対し、最適な品ぞろえ、価格での購買体験を提供できる
- AIカメラによる店内導線分析:AIを搭載したカメラを用いて、商業施設や店舗の顧客行動データの収集・分析することで、顧客に対して、最適化された店舗体験を設計し、提供できる
- 店内デジタルサイネージ:店内に設置したAIカメラ付きのデジタルサイネージを用いて、店内客層に合わせた広告表示のプランニングや、視聴・購入状況を踏まえた運用最適化を実現できる。デジタルサイネージに接触している顧客情報と連動させることで、その顧客に合わせた情報を提供できる
- リテールメディア:小売業者(リテール)が保有する、店頭のデジタルサイネージや、リテールのアプリやWebサイトなどの情報接点を活用し、店舗利用者に直接的にアプローチできるメディア媒体を指す。顧客は来店前後も含めた接点で、最適化された情報やお得なクーポンなどを受け取ることができる
- B. 注文・決済の顧客体験向上
- モバイルオーダー:モバイルアプリを介して、顧客が来店前にオーダーと決済を完了させることで、指定の店舗でスムーズに商品を受け取れるサービス。顧客の利便性と体験価値向上につながる
- タブレット注文/接客:席に備え付けのタブレットや顧客自身のデバイスから、店員を通さず直接商品やサービスの注文ができるシステム。顧客の利便性を高めると同時に、店舗オペレーションの効率化を実現する
- セルフレジ:店舗会計(バーコードスキャン・決済)の一部またはすべてを、顧客自身で行うことができ、レジ混雑の緩和による利便性向上や店舗オペレーションの効率化を実現する
- スマートカート:顧客自身が、ショップカートに備え付けの端末で商品コードをスキャンしながら、買い物を進める仕組み。レジに並ぶ手間や清算の待ち時間がない、新しい買い物体験を提供する
- C.接客応対の顧客体験向上
- ロボット接客・配膳:接客業務をロボットで自動化することで、人的コストの削減や多言語対応といった品質向上・標準化が期待できる(現在、受付案内・配膳などで実用化が進んでいる)
- AI/アバター接客:顧客は接客スタッフの混雑状況を気にすることなく、サービスを享受できる。また、遠隔地でも限られた専門性のあるスタッフの接客を接客を受けられる
- D.次世代店舗
- VRショールーム:VR技術を用いて、仮想空間で商品やサービスをリアルに体験・表示するショールームを生成することで、顧客が場所を選ばず、現実および現実以上の購買体験を得られる
- スマートストア/無人店舗:店内のカメラやセンサーを用いて、利用者が手に取った商品を自動認識し、欲しい商品を手に取って退店するだけで決済まで完了することができる、次世代の無人店舗の仕組みを指す。顧客は、スタッフの有無にかかわらず、いつでも買い物を楽しむことができ、人的なやりとりが一切ないスムーズな買い物体験を得られる
その他、広義でのリテールDXソリューションには、CDP(カスタマーデータプラットフォーム)による顧客情報の統合、AIによる購買行動分析や需要予測、バックヤード在庫リアルタイム連携、店舗販売スタッフの働き方改革など、店舗での顧客体験を間接的に向上させるソリューションも数多く存在している。しかし、今回は顧客が店舗内でダイレクトに享受するデジタル体験に焦点を当てた整理およびその紹介であることをご容赦いただきたい。
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