日本にはない「混雑しないファストフード」 シンガポールで見つけた“ささやかな”リテールDX(4/4 ページ)
筆者はシンガポール旅行で”ささやかな”リテールDXをいくつも体験した。一つ一つが画期的で想像もしていなかったわけではないが、日本国内では実現できていないものが多かった。シンガポールのリテールDXを踏まえて、顧客体験(CX)向上について考えてみたい。
CXを向上させる、リテールDX
それでは実際のリテールDXソリューション導入の話題に移ろう。
今回、店舗の顧客行動に焦点を当てて大きく4つの顧客体験(CX)分類に分けた。筆者は今回定義したそれぞれの顧客体験分類には「顧客にとって悪い体験・解消すべき体験」が存在し(=課題)、そして今回紹介したリテールDXソリューションは、この課題解消(CXの向上)こそが導入目的である、と捉えられると考えている。
これを表にすると次のようになる。
| シーン | 解消したい主な悪い体験 | リテールDXによりCX向上の狙い |
|---|---|---|
| 注文・決済 | 財布・小銭を出す、店員との会話、レジに並ぶ・待つ | 時間と手間の省略 |
| 店内回遊 | 探しているものが見つからない、新しい発見・気付きがない | ポジティブな時間への変換 |
| 接客・応対 | 聞きたいけど聞けない、望んでいない関与 | 顧客と店の適切な心理的距離 |
| 次世代店舗 | 慣れ親しんだいつもの買い物 | (上記3つを含めた)圧倒的な次世代体験 |
リテールDXソリューションの導入を検討している企業の担当者は、昨今乱立する多くのリテールテック企業のさまざまなソリューションの中から、自社にあった適切なモノを正しく選択することを強いられている。また、意を決して選択したソリューションを目的に合わせて正しく活用し、店舗経営の現場で成果を出していかなくてはならない。ソリューションの付加的な機能や派生のセールスポイントに目移りすることなく、しっかりと成果を刈り取るためには、上図の「どのシーンの店舗体験におけるCX向上」を狙っているのか? を強く意識する必要がある。小さく始め、少しでもCXの改善が効果として創出できれば、それをしっかりと育てていけばいい。
リテールDXソリューションを導入した業界のニュース記事を読んでいて「お、すごい!良さそう!」と感じることも多いが、実際の導入店舗に行ってみると「イメージしていたほど、良い体験とは言えないかも……」という経験が一度や二度ならずあった。やはり、そういったツールは結果として来店した顧客に使われていない(機能していない)ケースがほとんどなのである。
多くのリテールDXは実際の顧客の店舗体験に影響を与え、結果的に店舗現場のオペレーションをスムーズにするものが多いゆえに、現場で有効に機能しているかいないかは導入現場での顧客の利用状態や店舗のスタッフの推奨意欲に如実に表れる。裏を返せば、顧客が積極的に利活用してくれていれば、顧客にとっても、現場スタッフにとっても、そして導入を決めた各社にとってもうれしいしい結果が得られているといえる。
リテールDXは導入完了で成功可否を図るのではなく、顧客が喜んで利用しているか、現場スタッフが積極的に推奨しているかどうかで図るべきなのではないか、筆者はそう考えている。
リテールDXを導入する際に、重要な事は以下の6点だ。
- 導入の目的(=自社ベネフィット)を明確にする
- 導入後の顧客体験を設計する(ツール導入がゴールではない)
- まずは小さく始める
- 顧客が喜んでいる事、積極的に使ってくれている事を確認
- 店舗スタッフにイイね! と言ってもらう
- 上記1、2を守れているか? 最終チェック
リテールDXソリューションは、ツール選定、構築〜現場導入についつい注力しがちだ。あくまでも利用者目線を大切に。くれぐれも「2.顧客体験の設計」をおろそかにしないことを切に願う。
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