COP28で産油国が議長に 「化石燃料との決別」が宣言された交渉の舞台裏:「化石燃料の段階的廃止」の行方は(2/4 ページ)
昨年開催されたCOP28の議長国は、産油国のアラブ首長国連邦(UAE)だった。加えて、議長は国営石油会社のCEOでもあった。「気候変動会議の議長を化石燃料会社のCEOがリードできるのか?」と大きな話題を呼んだCOP28、どのような結末を迎えたのか。
COP28の特徴、産油国が議長国と「グローバル・ストックテイク」
COP28でこの「化石燃料」に関する議論が再び交わされるであろうことは、会議以前からも予想はされていた。しかし、今回のCOP28には2つ特別な文脈があったことを踏まえておく必要がある。
1つは、アラブ首長国連邦(UAE)という産油国が議長国であったことだ。議長は同国の産業・先端技術相であるスルタン・アル・ジャーベル氏であるが、同氏は国営石油会社アブダビ国営石油のCEOでもある。議長任命が発表された時には「気候変動会議の議長を化石燃料会社のCEOがリードできるのか?」と大きな話題となった。
COPにおいて、議長国の采配は大きな影響を持ちうる。むろん、決定は全ての参加国のコンセンサスのもとになされるが、そもそもどういう議題を「推す」か、そしてそのための大変な調整を行うかどうかは議長国のリーダーシップによるところが大きいためだ。
UAEは産油国の中でも、経済の化石燃料依存度が中程度の国である。英国のシンクタンクであるCarbon Trackerが2023年に出した報告書によれば、石油・ガスを産出する40カ国のうち、UAEの依存率は18番目で、およそ4割の政府収入を石油とガスに依存している(ちなみに、1〜3位はベネズエラ、トルクメニスタン、イラクであり、ほぼ全てを依存)。産油国でありながらも近年は再生可能エネルギー開発にも熱心であり、その意味では気候変動を比較的語りやすい立ち位置にはいる。しかし、それでも世界で10本の指に入る産油国であり、化石燃料廃止に関する議題を「推せる」のかについては不安と疑いの目が当初から挙がっていた。
COP28のもう1つの大事な文脈は、「グローバル・ストックテイク」の結論が出ることになっていたことである。グローバル・ストックテイクとは、パリ協定14条に記されている仕組みで、その名の通り、5年ごとにパリ協定下での気候変動対策に関する世界全体での(「グローバル」での)進捗を評価する(「ストックテイク」)仕組みである。
そして、このCOP28で、約2年続いた評価プロセスの結論を出すことになっていた。本来、このグローバル・ストックテイクは、化石燃料の段階的廃止を議論する場というよりは、各国が次に提出する削減目標などへのインプットとなることが意図されている。5年ごとに、まずは世界全体での取り組み見直しが行われ、その後に、各国がその結果を反映して次の行動を起こしていく、というサイクルが意図されているのである。削減目標などの各国の気候変動対策目標は、国別目標(NDC)と呼ばれる文書に記され、5年ごとに国連に提出されることが義務となっており、次の締切は2025年である。
今回のグローバル・ストックテイクでは、COP26以降の議論の流れを受けて、議長国の采配であえてこの化石燃料の議論を結論に盛り込む形となった。これは、政治的に難しい議題を複数持つことによる時間と労力の分散を避ける意味もあったであろうが、逆にパリ協定のスケジュール上、今回の会議で必ず結論を出さねばならない議題の中に盛り込むということは、失敗できないという意味において議長国にとっても賭けであったと考えられる。
関連記事
- レジ袋有料化の“二の舞”か プラ削減のために導入した「紙ストロー」が別の環境問題を引き起こすジレンマ
2022年は「プラスチック削減元年」と言っても過言ではないほどに紙ストローが普及した。環境に配慮した取り組みのようだが、レジ袋有料化同様に紙のほうが本当に環境負荷が小さいのか? という疑問が消費者の中で渦巻いているように感じる。紙ストロー移行は本当に意味があるのかというと…… - 「生物多様性」がビジネスに与える影響は? 森林を資源とする企業が知っておくべきこと
世界的な規模で続けられてきた自然環境の破壊が、なぜ今ビジネスにおいて、注目されているのでしょうか? 生物多様性とビジネスの関連性について解説します。 - 欧州の新サステナビリティ規制「CSRD」 日本の対象企業は約800社、今後の対応は?
2024年1月1日から、欧州の大手上場企業およそ1万2000社を対象にサステナビリティ規制「CSRD」の運用が開始される。これは欧州に限った話ではない。日本企業にはどのような影響があるのか、解説する。 - 「キリン 午後の紅茶」に学ぶ、生物多様性とビジネスを両立させるには? 情報開示や考え方を解説
生物多様性に関する議論は加速しており、気候変動の次の重要テーマとして国際目標が定められるなど、この1〜2年で企業による生物多様性や自然資本への関心が急速に高まっています。ビジネスと生物多様性を両立させるために企業は何から取り組むべきでしょうか? 「キリン 午後の紅茶」の事例をもとに解説していきます。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.