COP28で産油国が議長に 「化石燃料との決別」が宣言された交渉の舞台裏:「化石燃料の段階的廃止」の行方は(3/4 ページ)
昨年開催されたCOP28の議長国は、産油国のアラブ首長国連邦(UAE)だった。加えて、議長は国営石油会社のCEOでもあった。「気候変動会議の議長を化石燃料会社のCEOがリードできるのか?」と大きな話題を呼んだCOP28、どのような結末を迎えたのか。
「化石燃料との決別」 交渉の舞台裏
COP28での交渉は、予想通り紛糾した。
しかし、幸先はよかった。というのも、初日、もう一つの主要議題であった「損失と損害」に関する基金の運用化についての決定が採択されたからである。本稿では詳しくは述べないが、この「損失と損害」基金は、特に気候変動影響に脆弱(ぜいじゃく)な途上国に向けられる基金で、島嶼国や後発開発途上国が非常に重視をしていた議題でありつつも、難航が予想されていた。この議題に初日に決着がついたことは、他の難議題に割ける政治的・時間的余裕が増えることを意味した。そもそも、全てをパッケージ・ディールとして扱いがちなCOPで、初日にそうした決定を取ること自体が異例の措置であり、事前に議長国UAEや、ドイツなどの国々で相当な調整が行われたことが予想される(両国は同時に基金への1億ドルの拠出を表明した)。
しかも、100を超える有志国が「世界の再生可能エネルギーの設備容量を3倍にし、エネルギー効率改善率を2倍にする」という宣言を発表し、これはグローバル・ストックテイクの結論の草案に早々に盛り込まれた。ポジティブな勢いは確かに存在した。
しかし、そうしたおぜん立てがあってもなお、化石燃料に関する文言の交渉は難航した。やはりネックとなったのは産油国からの強い反対であった。
会期中、英ガーディアン紙による報道で「OPEC(石油輸出国機構)が加盟国に対して、化石燃料に対する圧力は不可逆な水準にまで高まることが予想されており、自分たちの繁栄がリスクにさらされる恐れがある」という主旨のレターを出していたことが報じられ、水面下では激しいロビー活動が行われていることをうかがわせた。
他方で、先進国の中でも化石燃料の使用量が多い国々である、米国やオーストラリアも、どうやら「段階的廃止」という文言でも問題がなさそうだという声が聞こえてくるなど、さまざまな動きが表でも裏でも見られた。気候変動の影響を最も受ける島嶼国はいわずもがなであるが、コロンビアなどの中南米の一部諸国も、化石燃料の「廃止」を強く求める声を上げていた。それらの国々は、沈黙を守っていた日本より、大きな存在感をこの会議では放っていた。
会期終盤、12月11日夕刻に議長国が出してきた提案は「化石燃料の消費と生産を共に減らす(Reducing both consumption and production of fossil fuels)」というシンプルな表現になっており、劇的で大幅な後退であるとして、会場内で悲鳴に近い批判が巻き起こった。
マーシャル諸島の代表は、この草案に対し「私たちは自分たちの死亡証明書にサインをしに来たわけではない」とまで述べた。夜を徹した交渉が行われ、会期は予定していた12日になっても終了せず、13日に突入した。
そして、13日の朝に再度出された議長提案では、冒頭に紹介した「化石燃料から転換していく(Transitioning away from fossil fuels)」という言葉が入った。当初目指された「廃止」というニュアンスは弱くなってしまったものの、“away from” (離れていく)と化石燃料から着実に脱却していく方向性が示されたことで、妥協が図られた。
このまま合意ができるのか、さらに延長となるのか見守るなか、13日の昼頃に、比較的すんなりと合意として採択された。国連気候変動会議が、曲がりなりにも化石燃料との決別を宣言したということで、歴史的・象徴的な意味を持つ成果となった。
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