発売1年で2億本 ピルクル ミラクルケアの「安い」と言い切るマーケ戦略、なぜ成功した:日清食品グループ内でも評価(1/2 ページ)
日清ヨークの「ピルクル ミラクルケア」が好調だ。「安い」と言い切るマーケティング戦略で、発売1年で2億本を売り上げた。価格訴求はブランドを傷つける可能性もある、諸刃の剣だ。なぜ「安い」と言い切るマーケ戦略を採用したのか、販売戦略とコミュニケーション設計を取材した。
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ツールを導入してマーケティングを強化する企業が増えている一方で、思い通りの成果を出せないと感じている企業が多いことも事実だ。セールスとマーケティングを連携することで、売上に貢献する仕組みづくりを解説する。
日清ヨークが2022年9月に発売した「ピルクル ミラクルケア」が好調だ。睡眠の質を改善し、日常生活の疲労感を軽減する機能性表示ドリンクで、1本(65ミリリットル)当たり乳酸菌が600億個入っている。発売1年でシリーズ累計出荷数2億本を突破した大ヒット商品なのだが、秀逸なのは、そのマーケティング戦略だ。
「睡眠と疲労感をケア。しかも安い!」と、あえて安さを押し出している。価格訴求は消費者の購買心理に働きかける大きな要素だが、マーケティングの世界においては諸刃の剣だ。
「安さ」は短期的な売り上げには貢献する魔法の言葉だが、長期的にはブランドを傷つける危険性をはらむ。ピルクル ミラクルケアのマーケティング戦略を設計した、マーケティング部の犬飼美穂子部長も「『安い』と発信することへの抵抗感はありました」と当時を振り返る。
結果的には大当たりしたわけだが、もちろんその裏には、戦略に対する葛藤やブランド価値を毀損させない綿密なコミュニケーション設計があった。
「価格訴求はマーケティングではない」 敏腕マーケターの葛藤
ピルクル ミラクルケアの着想は19年にさかのぼる。ちょうど同年に、競合のヤクルトが「Yakult(ヤクルト)1000」を発売した。機能性食品は基礎試験や臨床試験、機能性表示の申請などの工程を挟むため、発売までに最低でも3年ほどの時間がかかるという。ピルクル ミラクルケアの発売時、店頭にはすでにヤクルトの「Y1000」が並んでおり、後塵を拝するかたちとなった。
Y1000発売から1年の遅れがあるが、犬飼氏はこう振り返る。「ヤクルト1000(宅配専用)が発売されたので、店頭向け商品も出てくるだろうなとは思っていました。ただ、ピルクル ミラクルケアも着想から発売まで最短期間だったと言えます。睡眠の質改善ドリンクが大きなブームとなったため、対抗商品として急いで市場に投入したように見えたかもしれませんが、そういうわけではありません。後発だからどうという意識はあまり持っていませんでした」
競合対策より、ピルクル ミラクルケアを飲み続けてもらうための設計にこだわった。毎日飲めるよう甘すぎない味にし、カロリーを減らしたり、1本当たりの単価を安くしたりといった工夫だ。Y1000という市場の圧倒的な王者はいたが、そのおかげで睡眠市場は活性化。Y1000の品薄状態が続いたことで、売り場で類似商品のピルクル ミラクルケアを手に取る人も増えた。
おそらくピルクル ミラクルケアの購入者の中には、その「安さ」に引かれた人もいるだろう。市場を席捲していたY1000は、1本(110ミリリットル)当たり150円(希望小売価格)と少々強気な価格設定だったのだ。結果的に、1本(65ミリリットル)当たり約40円というピルクル ミラクルケアのお得感が際立った。
しかし、犬飼氏は「安い」というワードを使うことに抵抗感を持っていたという。「価格訴求をした商品がマーケティングの好事例として取り上げられることはあまりなく、それゆえか、価格訴求はマーケティングではないと思い込んでいました。常識ではないのに、常識のように感じてしまっていたんです」
店頭に行けば値段は分かるので、あえて声高にアピールする必要はない。睡眠の質の改善と疲労感の軽減という機能性に焦点を当てたマーケティング戦略は固めていたが、安さ訴求については決めかねていた。
そんな犬飼氏の迷いを、日清食品ホールディングス代表取締役副社長・COOの安藤徳隆氏が晴らした。同氏にピルクル ミラクルケアの完成品を報告しに行った際の出来事だ。
「『しっかり機能がある上で安いとアピールすることは恥ずかしくない。安さも含めて、お客さまにとっての価値なんだから』というフィードバックをいただきました。睡眠の質改善と疲労感軽減という訴求だけでは弱いかもしれない。安いと言い切るのは抵抗があり逡巡していましたが、腹をくくれました」
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