ガンダムは「複雑で初心者に不向き」なのに、なぜ新規ファンが増え続けるのか:グッドパッチとUXの話をしようか(3/3 ページ)
1月26日、劇場版『機動戦士ガンダムSEED FREEDOM』が公開されました。ガンダムはシリーズも多く、ストーリーも複雑で初心者に不向きなように思う。にもかかわらず、なぜ新規ファンが増え続けるのかというと……
メディアミックスやプラモデルによる「単純接触効果」
ここまで、さまざまなガンダムの魅力を説明してきましたが、人気を支える最も強力な仕掛けは、アニメやコンテンツの「終了後」にあると考えています。
どんなコンテンツにも終わりがあり、アニメであれば最終話がやってきます。結末は気になるものの、毎週の楽しみがなくなってしまうあの喪失感は言葉では言い表せません。
「人間は何かを得たときの喜びより、失ったときの悲しみのほうが大きい」というのは認知心理学でもよく言われる話。別の作品が一時的に喪失感を埋めることはありますが、大好きなシリーズの最新作にまた出会えることを心のどこかで望むものです。
ガンダムSEEDであれば、アニメシリーズ終了から20年。そこまでファンの気持ちが途切れなかった理由として、スピンオフ作品やHDリマスター版をはじめとして、さまざまな形でコンテンツが提供され続けていたためだと考えられます。
公式の作品でなくとも、家庭用ゲーム機からスマートフォンまでのさまざまなゲーム、ラジオといったメディアミックスはもちろんのこと、ファンによる二次創作などもコンテンツの人気を支え、需要を満たし続けてきました。
さらに、ガンダム人気の立役者として忘れてはならないのが「ガンプラ」の存在です。作中で戦いの要となるモビルスーツがプラモデルになったガンプラは、ファンの声をきっかけに販売を開始。実在する兵器のモデルのように改造を施した作例が、模型雑誌『ホビージャパン』別冊に掲載されたことで、爆発的ブームを起こしたといわれています。
「映像を見る」以外の時間でも、その作品に触れる時間が長ければ長いほど、愛着が深まるという心理があるのをご存じでしょうか。これは「単純接触効果」と言われ、繰り返し見たり触れたりする接触の回数が増えるほど、親しみや親近感を覚えるという効果です。見たり聞いたりしたときにできる、潜在記憶が影響しているのではないかと言われており、無意識のときほど、その効果は強く働くといわれています。
ゲームやプラモデル、さまざまな形でコンテンツに触れ続けることで、ファンの愛情は薄れなかった。そして、これはガンダムシリーズ全体に言える可能性もあります。
この20年、ガンダムSEED以外にも数々のガンダム作品が生まれました。他のガンダム作品に触れることで、無意識のうちにガンダムSEEDを想起していたとしたら……。ガンダムはシリーズ全体で「リバイバル(復活)」や「リメイク」に強いコンテンツ群となっているのかもしれません。
長続きするシリーズを作り、新旧ファンの心を掴む秘けつとは
ガンダムは最初にアニメシリーズとして放送されたいわゆる「ファーストガンダム」から、さまざまなシリーズが作られています。
今回映画化されたガンダムSEEDでは、監督も作画の雰囲気も従来の作品とはまったく違い、女性ファンを増やしたことも有名です。一方ファーストガンダムのコアファンは変化したSEEDシリーズには興味がなかったり、どちらも好きなファンもいたりします。
ガンダムの継続的な成功には、新旧ファン層を取り込んだ柔軟な多様性と、新旧の対比から生まれる熱い議論が影響しているのは間違いありません。新作が登場するたびに、ファンは期待と懸念を胸に抱きながら、新たな感動への一歩を踏み出しています。
奥深く複雑なストーリーや世界観の設定、分かりやすい視覚表現、多くのファンを取り込む柔軟な多様性……これらを全て再現しても、ガンダムシリーズと同じ歴史や爆発的人気を作り出すのは簡単なことではありません。
しかし、長く続くコンテンツには人気の秘けつがあるもの。ユーザーを虜にする複雑性や、間口を広げるシンプルさ、シリーズにハマった人を離さない仕掛け。きっと共通する項目が見つかるはずです。さまざまなジャンルでリバイバル・リメイク作品が増えている昨今、その理由に思いを馳(は)せてみては?
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