なぜ今、ロードスターがアップデート? そして990Sが消失したワケ:池田直渡「週刊モータージャーナル」(5/5 ページ)
2015年のデビューなのでほぼ9年が経過したマツダ・ロードスターが大幅なアップデートを受けた。と聞いたら普通はいくつか疑問が出るだろう。
新設計のリミテッドスリップデフの効果
さて、今回のロードスターは記事を書く立場からすると手強い。それは全く新設計のリミテッドスリップデフ(LSD)が入ったからで、その作動はちょっと独特なもの。ここからその説明を始めると大変なことになるので、インプレッションと併せて後編としたい。「おいおい、2週間も待たせるのかよ」と言われるのは想像が付くので、ごく簡潔なインプレだけ先行して書いておく。
新型は正義の進化を遂げた。それは機械的に完璧に正しく、クルマの動きがより信頼できるようになった。リヤのグリップに、極端にいえば盤石な感じが備わり、コーナーの進入姿勢も、旋回時の接地感もはっきりと向上した。またパワステの改良もパーフェクトであり、精度が明らかに向上した結果、むしろちょっと存在感が薄くなったほどである。
プロの評価としては、素晴らしいとしか言いようがない。のだが、1ファンとしてはまたちょっと違うところもある。ちょっと完璧過ぎるかもしれない。価格と重量を除き、何かがトレードオフになって失われたわけではないあの仕上がりに対して、ほとんどいちゃもんなのは自覚している。「良くなったのがいけない」みたいな話だし、もっと長距離を走ったら、これまでの運転体験が上書きされて、もっと評価が上がる可能性さえあるのだが、これまでのロードスターは、至らぬところにかわいげがあったように思えてならないのである。
ここはちょっと難しいのだ。ロードスターはそもそも初代のNA型もそれ以降のどのモデルも、その本質において何も古びていない。新鮮な魅力を放ち続けている。たぶんそれと同じように、ビッグマイナー前のND型も、後のND型も、普遍的価値はほとんど変わらないと思う。でも良くなっているんだよねぇ。
そういえば、次期ロードスター、NE型についてはまだ何一つ手を付けていないそうだ。35年時点でのICE(内燃機関)に対する法的扱いがどうなるのかが未だ見えぬ中、そりゃ着手のしようもないだろうとは思う。だから、裏返せばND型の時代はまだまだ続くのだ。
ということでどう結論を結ぶかは次回までに考える。まあ初めて買うなら新型だということは認める。心の中で、現在すでにオーナーである人に「それも良いクルマだよ」という余計なお世話を焼いているのかもしれない。
プロフィール:池田直渡(いけだなおと)
1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(カー・マガジン、オートメンテナンス、オートカー・ジャパン)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミュニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。
以後、編集プロダクション、グラニテを設立し、クルマのメカニズムと開発思想や社会情勢の結びつきに着目して執筆活動を行う他、YouTubeチャンネル「全部クルマのハナシ」を運営。コメント欄やSNSなどで見かけた気に入った質問には、noteで回答も行っている。
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