『セクシー田中さん』の悲劇で加速する 日本マンガ実写化ビジネスの海外流出:スピン経済の歩き方(4/8 ページ)
テレビドラマ化した漫画原作者が亡くなるという悲劇が起きてしまった。同じことを繰り返さないために、日本のコンテンツビジネスで求められることとは――。
もし日本で制作していたら
厳しい言い方だが、もし日本で制作していたらこういうことにはならなかっただろう。テレビ局と映画配給会社、広告代理店による「ワンピース制作委員会」が立ち上げられて、メディアミックスの名のもとで横断的なプロモーションやキャンペーンが行われる一方、尾田氏の「原作が正しく映像化される」ことはそれほど尊重されなかったはずだ。
まず、キャスティングが無理だ。観客動員数が欲しいということで、主要キャラである「麦わらの一味」の半分くらいはSMILE-UP(旧ジャニーズ事務所)所属のアイドルになっていたかもしれない。漫画の実写化作品でおなじみの役者も入っていただろう。ストーリーや演出に関しても、関係各位の「オトナの事情」から、尾田氏の意向はそこまで反映されなかったはずだ。
そのような日本のエンタメ業界のシビアな現実を踏まえれば、尾田氏の「実写版は海外と組む」という決断は大成功と言わざるを得ない。実際、この成功パターンの後に続けと言わんばかりに、堀越耕平氏の人気漫画『僕のヒーローアカデミア』(集英社)も、ハリウッド版『GODZILLA』で知られる米レジェンダリー・ピクチャーズでの実写版製作が進行している。
また、組むのはハリウッドだけではない。例えば、お隣の国・韓国ではもともと日本の漫画は人気で多くの実写化実績もある。22年7月に放送をスタートしたドラマ『今日のウェブトゥーン』は、松田奈緒子氏の人気漫画『重版出来!』(小学館)が原作だ。
少し前には、日本の漫画ファンが多いことで知られるフランスでも『シティーハンター』(集英社)が映画化された。東京・新宿を舞台にした原作を、フランスを舞台にフランス人が演じたのだ。日本では当初イロモノ扱いされたが、視聴してみると、原作への愛が随所にあふれていたこともあって、ファンはもちろん、そうではない一般の映画ファンからも好意的な反応だった。
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