サステナビリティ規制「ISSB」が変える、企業の財務情報開示 日本企業はどう備える(1/2 ページ)
2023年6月に発表された「ISSB基準」によって、企業の財務情報開示はどう変わっていくのでしょうか? TCFDとの違いや、対応が迫られる日本企業がやるべきことを解説します。
本連載では、サステナビリティ情報開示の新たな規制の内容やグローバル市場への影響について、詳しく解説します。
前回までに、気候関連の情報の開示について現在の状況に至った要因や背景、全体像の概説、今後求められる対応とその推進のための指針、企業サステナビリティ報告指令(CSRD)で求められる情報開示について解説し、日本企業への影響や対応方針を紹介しました。
今回は、国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)の基準がグローバルな規制として果たしている役割や、日本企業がこの規制に対してどのような備えをしておくべきかについて解説します。
ISSB基準とは?
2023年6月、ISSBは企業のサステナビリティ関連開示の基準(IFRS S1、S2)を発表しました。この基準は、企業の情報開示が標準化され、比較可能になることを求める投資家ニーズに応えるために作成され、サステナビリティ報告のグローバルスタンダードとしての役割が期待されています。
IFRSのS1とS2は、最初に公表された2つの基準です。S1では連結性、場所、タイミングといった報告の基本原則などの、サステナビリティ情報開示の一般的な要求事項を定めています。S2では、気候関連開示に関する具体的な要求事項を示しています。このISSB基準は、国際的に認知され広く利用されているTCFD提言の4つの要素のフレームワークに基づいて構築されています。
ISSBの基準は、サステナビリティ情報開示と財務報告の関係をより明確にするものであり、経営陣にとって重要です。なぜならこの基準は、法令対応として求められる財務情報とサステナビリティ情報を併せて報告することを求めているためです。
また本基準では、サステナビリティ関連と財務情報は同期間のデータを対象に同時に発行することを求めています。この点が従来の自主的な企業のサステナビリティ情報開示と、今後の規制対応として求められる企業のサステナビリティに関する財務報告との重要な違いとなります。このようなサステナビリティ情報と財務報告の整合は、サステナビリティに関する情報の財務上の意思決定への統合を促進することとなります。
さらに、証券監督者国際機構(IOSCO)はIFRS S1とIFRS S2をエンドース(承認)し、現在130の加盟国に対してそれぞれの規制の枠組みにこの基準をどのように組み込むことができるかを検討するよう呼びかけています。IOSCOの加盟国は、世界の証券市場の95%以上を規制する資本市場当局であるため、加盟国による基準の採用は世界の資本市場に大きな影響を与えることになります。
COP28では、64の国・地域から400近い組織がISSB基準の採用や利用を推進すると表明しており、ISSB基準の世界的な拡大傾向が明らかとなりました。
TCFDとISSB基準のS2はどう違うのか?
ISSBの気候基準(S2)は、気候関連情報開示のグローバルベンチマークとしての役割を目的としていますが、その内容はゼロベースで新たに作られたものではありません。むしろ、世界的な規模で広く受け入れられ、我が国が世界で最も賛同企業数の多い、気候関連情報開示の枠組みであるTCFD提言をベースにしています。
TCFD提言の4つの要素である、「戦略」「ガバナンス」「リスク管理」「指標と目標」は、ISSBのS2おいても同様に採用されています。このため、すでにTCFDを熟知している企業は、ISSB基準に基づいた開示を実施する際にこれまでの取り組みを大いに生かすことができます。
ISSB基準が行ったことは、TCFDでの「提言」を「要求事項」に強化し、開示に必要な情報をさらに明確にしたことです。その具体的な内容は以下の通りです。
- 気候関連リスクや機会への取締役会のガバナンスの詳細の記載
- 業界固有のリスク、機会、指標(含むファイナンスドエミッション)の開示
- スコープ3を含む包括的な温室効果ガス(GHG)排出量データの開示
- 投資家が報告された数値を理解するための、排出量測定に用いられた手法、インプット、仮定に関する追加情報
- 移行計画の開示
- シナリオ分析に基づく会社の戦略のレジリエンス(会社の状況に応じたもの)
- 気候変動に関連するリスクと機会が企業業績に与える現在及び予想される影響に関する定性的、定量的な開示
- ネット排出量目標達成のための、カーボンクレジットの使用計画
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