定年後の嘱託社員、最低賃金での雇用はアリなのか?:増加する、60歳超えの労働者(2/2 ページ)
60歳の定年後に社員を再雇用する場合、給与はどれくらい支給すべきでしょうか? 6割程度が一般的と聞きましたが、最低賃金での雇用もアリなのでしょうか?
非正規社員として再雇用 給与大幅減には泣き寝入り?
冒頭で述べたように定年後の継続雇用した場合は、正社員から嘱託やパート社員といった非正規社員に変わりますので、異なる給与体系が適用されます。大幅に基本給が減額されても不利益変更に当たらず、違法とはいえないのです。ただし何も規制がないわけではありません。同一労働同一賃金といって、正社員か契約社員かなど雇用形態にかかわらず、企業内で同一の仕事をしていれば、同一の賃金を支給するという考え方で、給与を支給することが求められています。
正社員から契約社員やパート社員という職制に変わったものの、正社員時代と同じ内容の仕事をして責任も課せられている。にもかかわらず、給与が大幅に下がったようなケースは、同一労働同一賃金の考え方から外れるといえるでしょう。
しかし同一労働同一賃金には、賃金の未払いや社会保険の未加入といったような労働基準法の違反におけるような罰則はありません。労働基準監督署に訴えでたとしも、対象企業に対して指導や勧告はあるものの、すぐには解決に至らないときがあります。したがって待遇に対して不満を抱いた労働者が企業側を訴え、裁判で白黒をはっきりさせるという流れになりがちです。
企業側が優位だが風向きは変わってきた
ただ裁判となると弁護士費用も発生しますし、判決が出るまで時間がかかります。定年まで長年勤めあげてきた企業を訴えるのは、なかなかエネルギーがいります。また新たな転職先を探すにも60歳前後の転職活動は依然として厳しいものがあります。継続雇用で提示される待遇に納得がいかないが、今後の生活のために我慢したという人も少なくないかもしれません。
大半の労働者が継続雇用を希望するため、労働力の需要と供給とバランスから企業側が有利だったことは事実です。しかし、ここにきて状況は変わりつつあります。新卒者が殺到する人気企業を除き、大半の企業では、中途採用によって人材不足を解消する必要に迫られています。職種差はありますが、2024年度も転職市場は、求職者側が有利な状況となっています。
60歳以降も働くのが当たり前となった今日、目先の待遇だけでなく将来の待遇についても気にする人が増えてくるでしょう。SNSなどにより、今までブラックボックスとなっていた継続雇用の待遇も明確になっていく可能性があります。定年前と比べて60%以下が違法ではないという判決が出たとしても、継続雇用の条件をやみくもに下げてしまうと求職者に敬遠されて人を採用できないというリスクがあります。
現役世代への賃上げブームが起こっており難しいところですが、継続雇用者の給与体系についても検討が必要だと思われます。
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