「シラコンバレー」の異名も 和歌山にIT企業が続々進出、なぜ?:未来の商機は地方にあり(2/4 ページ)
和歌山県に近年、IT企業が相次ぎ進出している。直近の約5年で20社が拠点を設置。企業誘致を本格的に始めた2001年当初は、誘致に成功しても長続きしないケースもあったという。県は過去の反省を生かし、どのように改善を進めていったのか。
誘致した企業が数年で撤退……なぜ?
IT企業の誘致に向け、白浜町はもともと保養所だった場所を買い取り、県の補助金も活用して、04年にIT企業向けのレンタルオフィス「白浜町ITビジネスオフィス」を開設した。同年、都市部から2社の誘致に成功したが、わずか数年で撤退してしまう。何が原因だったのか。
「進出した企業へのフォローアップが十分ではなかった」
当時から企業誘致を担当していた白浜町の企画政策係長、鎌谷隆志さんはこう振り返る。都市部から進出した企業にとって、地域のことは詳しく分からない。人間関係も全て一から作ることになる。
「行政のフォローアップがなければ、どこに行っても同じ。特に白浜にこだわる必要はなく、より土地の安い地域を探せばいいのではないか」。そんな企業側の本音を、鎌谷さんは後に聞いたという。
この時の反省を機に、現在、白浜町は進出した企業へのソフト面でのフォローアップを強化している。
進出した企業の担当者から「従業員の住む場所を探している」という質問を受けたら、地元の不動産業者を紹介。地域に事業を周知したい企業には「地元紙に広告を出さないか」などとアドバイスするなど、きめ細かく相談に乗るようにしている。進出企業同士の交流につなげようと「IT飲み会」などのイベントも定期的に開催しているという。
県としても、県内に進出した企業同士の横のつながりを強化しようと、23年7月に県内への進出企業と各大学・高専など産官学が連携する座談会を開催。37団体65人が参加し「教育機関と企業、企業同士のつながりができて良かった」などという意見が挙がったという。
「視察につながれば7割は誘致に成功」
県の企業誘致の体制はどうなっているのか。
企業誘致は主に、県の企業立地課が担当する。課内にある、IT企業の誘致をメインに担う新産業立地班の4人と、県東京事務所の企業誘致担当2人が連携して取り組む。このほか、23年度から県は副業人材制度を立ち上げ、民間企業にいながら県の企業誘致に取り組む「企業誘致パートナー」も1人採用。計7人体制で企業側にアプローチしている。
企業側にコンタクトを取り、手応えがあれば訪問。関心を示した企業の県内への視察にまでこぎ着けるのが、第一ステップだという。県企業立地課の班長、西山文基さんは「ここ3年に県内に進出した企業のうち、県側から営業をかけて視察に訪れ、進出に至った企業は7割に上る」と話す。
企業の地方移転の決断を後押しする視察。企業誘致の成否を握る重要なカギとなる。それだけに、県はとりわけ視察の工程づくりを重視しているという。
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