“キラキラ若手”が会社を辞める3つの要因(1/3 ページ)
就業者の幸せな活躍にとって重要な社会へのエンゲージメントを「ソーシャル・エンゲージメント」という。このソーシャル・エンゲージメントという概念を用いながら、若者の仕事意欲の低下や離職リスクなどについて解説する。
この記事は、パーソル総合研究所が2023年12月14日に掲載した「『キラキラした若者』はなぜ会社を辞めるのか ソーシャル・エンゲージメントの視点から」に、編集を加えて転載したものです(無断転載禁止)。なお、文中の内容・肩書などはすべて掲載当時のものです。
パーソル総合研究所では、立教大学の中原淳教授、ベネッセ教育総合研究所との研究プロジェクトである「ハタチからの『学びと幸せ』探究ラボ」において、若手社会人が仕事で活躍し幸せを感じること(幸せな活躍:注1)のヒントを探求している。本コラムでは、そこで得られた成果のうち、就業者の幸せな活躍にとって重要な社会へのエンゲージメント、「ソーシャル・エンゲージメント」について詳細な分析を紹介したい。
(注1)具体的には、以下のように「幸せな活躍」を定義した。「はたらく幸せ実感」はパーソル総合研究所×慶應義塾大学 前野隆司研究室 「はたらく人の幸せに関する調査」より「はたらく幸せ実感」の項目を使用した。
本調査での「幸せな活躍」の定義と測定:「はたらくことを通じて、幸せを感じている」などの7項目を「個人の主観的な幸せ(はたらく幸せ実感)」として測定し、「顧客や関係者に任された役割を果たしている」「担当した業務の責任を果たしている」などの5項目を個人のジョブ・パフォーマンスとして測定した上で、全体分布の中でともに高い層を「幸せな活躍層」として定義。
すでにコラム「『社会』へのエンゲージメントが仕事で活躍し幸せを感じることに導く――ソーシャル・エンゲージメントとは何か」で紹介した通り、本ラボでは、就業者の重要なエンゲージメントとして、「社会」へのエンゲージメントである「ソーシャル・エンゲージメント」という概念を提起した。
ソーシャル・エンゲージメントとは、(1)「社会への関心があること」、(2)「社会的責任感を持っていること」、(3)「社会課題解決への効力感」という3つの側面からなる、個人が持つ「社会への志向性の強さ」のことである。
定性的・定量的な検証ののち、このソーシャル・エンゲージメントは、本人のウェルビーイング(Well-being)、職場での個人パフォーマンス、ジョブ・クラフティング(従業員が自らの職務内容や職務のフレームを再構築し、それをより意味があるものに変える行為:注2)といった重要な成果に強いポジティブな関係があることが分かっている。本コラムでは、そのソーシャル・エンゲージメントという概念を用いながら、若者の仕事意欲の低下や離職リスクなどについて議論を行っていく。
(注2)ジョブ・クラフティング:仕事の自律的再創造に向けた理論的・実践的アプローチ 単行本 - 2023/3/18 高尾 義明(編集), 森永 雄太
入社後「意識の高い若者」の目が曇っていく
就活の現場を見ていると、ボランティアや国際活動など、何らかの社会性にあふれた活動を学生時代から積極的に行い、コミュニケーションがうまく経験豊富な学生に出会うことが多々ある。学生はその経験を生かした就活を行い、しばしば企業からの人気も高く、大手企業の内定を幾つも獲得していく。また、企業側も、採用マーケティングや企業説明会などで、自社の事業の社会的意義や地域への貢献、地球環境への配慮などをアピールすることがほぼ通例となっている。
しかし、そうした「キラキラした」「意識の高い」ように見える学生の多くが、社会人として数年を過ごしていくうちに企業内で意欲を失っていくことが多いこともまた事実だ。企業理念や事業の社会的な意義に共感し、意気揚々と入社するにもかかわらず、入社後にどこかのタイミングで落胆し、早期離職に至ることも「意識の高い若手あるある」として採用担当者の間でよく聞かれるものだ。こうしたケースで見られるのは、「社会」的な関心が強い20代の若者、つまりここでいう「ソーシャル・エンゲージメント」が高い層の若者が、入社後に活躍していかないという課題である。
ソーシャル・エンゲージメントの各要素を、年齢別に見てみよう。「社会課題への具体的関心」と「課題解決への効力感」は20代を通じてやや減少傾向にある。その後ソーシャル・エンゲージメント全体は横ばい傾向になり、50代後半から上昇するという傾向が見られる。「キラキラした意欲が失われていく」といった現象は、データでも兆候として見られるようだ。ただ、この年齢傾向は、世代効果(コーホート効果)か加齢効果かの判別はできない。そのため、詳細な仕事経験とソーシャル・エンゲージメントの関係を見てみよう。
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