マツダ・ロードスターの大改変 減速で作動するアシンメトリックLSDの狙い:池田直渡「週刊モータージャーナル」(6/7 ページ)
マツダのいうアシンメトリックLSDは、これまでのセオリーに反し、減速時の方をより強く拘束するというこれまでになかった発想のLSDである。なぜこのようなLSDを搭載したのか。歴代ロードスターが抱えてきたセッティング苦悩の背景から解説する。
脱出加速重視ではなく姿勢制御のためのLSD
マツダのいうアシンメトリックLSDは、これまでのセオリーに反し、減速時の方をより強く拘束するというこれまでになかった発想のLSDである。従来のLSDの主目的が駆動力を伝えることだったのに対し、アシンメトリックLSDは、姿勢制御が主目的なのだ。
だから減速時の拘束力を第一に決め、加速側に関してはプッシングアンダーを嫌ってやんわり効かせる。プッシングアンダーとは、後輪の駆動力がクルマを真っ直ぐ前方へ押し出そうとする力に、フロントタイヤが負けて、アンダーステアに移行することをいう。ちょっと極論を承知で言えば、従来のLSDがアンダーステアを許容してでも、とにかくクルマを前に押し出すことを優先させていたのとは考え方が逆だ。
つまりアシンメトリックLSDは、減速時の後輪からの抜重による意図せぬオーバーステアを抑制する減速側の高い拘束と、加速時の意図せぬアンダーステアを抑制する弱めの拘束で成り立っている。
KPCが内外輪差を検知して、減速時の内側後輪の浮き上がりをブレーキとサスペンションジオメトリーを駆使して「予防」するものだとすれば、機能面から見たアシンメトリックLSDは、外輪の自由回転を拘束して、ヨーの立ち上がりを抑制する機構である。その作動は、実際に乗ってみると、とてもシームレスに感じる。セッティングは大変だったらしい。
かつてのND型はコーナー入り口での減速からターンインの時、「リヤが滑るかも」に備える心構えが必要だった。ちゃんと速度と減速Gをコントロールしていればホントにズルっといくことはないが、わずかではあるが警戒せずにはいられない挙動を示していたわけだ。
ところがKPCとアシンメトリックLSDのおかげで、そういう不安がなくなった。新型は、減速でもターンインでもリヤのグリップに対する信頼感がたっぷりで、おまけに旋回から先でもより踏んでいける。「LSDがあるなら」とパワーオーバーステアに持ち込んでドリフトがしたい人には向かないが、スポーツカーのハンドリングとしてとても洗練されている。
ステアリング機構のフリクションがなくなって、前輪側の操舵感の精度感を増したこととも関連しているのだろうが、とにかく、クルマを自分のコントロール下に収められる感じが明らかに上がっている。乗っていると一連の挙動はとてもスムーズで、どこからどこまでがどの機能のおかげなのかは切り分けられない。そのくらい自然であり、結果として良いので文句はない。
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