BM、ダイハツ、豊田織機……組織が悪事に走る根本原因:働き方の見取り図(2/3 ページ)
有名企業による不祥事が後を絶たない。不正行為の繰り返しを防ぐには、会社組織に内在する根本的な原因に目を向ける必要がある。
「自己犠牲」と「会社第一主義」の弊害
仕事をしていると、楽しいことばかりではありません。中には、強いストレスがかかる嫌な仕事もあります。気難しい顧客からのクレームに頭を下げに行く時。「あのお客さん、コワイからイヤだなぁ…」と、自分としては逃げ出したいものの、役割を果たさなければならないと勇気を振り絞るのは、それが会社のためだからです。
クレームを放っておいたら会社の信用は損なわれ、大きな損害につながりかねません。そんな時、自分の都合ではなく会社の都合を優先しようと自らに言い聞かせるのが、自己犠牲の精神です。
そして、“逃げたい”というエゴを捨て、勇気を出して困難に立ち向かった結果、ミッションをクリアすると「よくやった」「お疲れさま」と上司や同僚たちからねぎらわれます。そうやって自己犠牲を払う姿勢が称賛され続けると、それが美徳として刷り込まれ、何よりも会社が求めることを優先する、会社第一主義の価値観が確立されていきます。
チームワークが固く、統制がとれている会社組織ほど、自己犠牲の精神と会社第一主義は強固に根づき、上位のポジションにいる社員ほどその傾向がより色濃くなっていきます。ところが、そんな組織としての強みが行き過ぎると、社会との関わり方を誤らせてしまう落とし穴になるのです。
そのメカニズムは、会社で行われる仕事の性質を分類すると見えてきます。会社にとって利益か不利益かを縦軸、社会にとって利益か不利益かを横軸にとって分類すると、仕事の性質は以下4つのパターンに分かれます。
会社にとって利益があり社会にとっても利益があれば、正に本筋と言える有意義な仕事です。それに対し、会社にとっては利益があるものの、社会にとっては不利益となってしまう仕事は独善的です。不正を実行するという仕事もここに分類されます。
一方、会社にとっては不利益になるものの、社会にとっては利益となる仕事があります。その行いは慈善事業としては立派ですが、営利を生み出さないため、会社の事業活動としては綺麗事になってしまいます。また、会社にも社会にも不利益をもたらす仕事はそもそも無価値です。
会社組織で不正が起きるのは、それらの行いが独善的であるにもかかわらず、会社に一定の利益をもたらすからに他なりません。高学歴やコミュニケーション力などを兼ね備えた優秀で選ばれし社員たちであっても、自己犠牲の精神と会社第一主義が行き過ぎて“歪んだ正義感”が生じると、そんな独善的な不正に携わってしまいます。
「良くないことだって分かっている。でも、バレないようにうまくやれば会社は業績を上げられる」あるいは、「今回だけ」などと始まった不正が、何十年も繰り返されてしまった時、新たにその仕事を担当することになった社員が、過去の不正をすべて暴いてひっくり返すのは大変です。
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