「一貫荷姿」を疑え
皆さまは「一貫荷姿」という言葉は初めてお聞きになるのではないだろうか。一貫荷姿とは、前工程で作られた状態のまま変更なく、最終工程まで運ばれる荷姿のことを指す。
長距離輸送を伴う物流でよく採用される、物流効率化のための発想である。この考え方を工場で当てはめると、協力サプライヤーの生産工程で作られた荷姿を途中で変更することなく自社の生産工程まで運んでくることになる。すると、物流の観点で見れば極めて望ましい「節なし物流」を実現できるのである。
協力サプライヤーは自社の物流コスト、すなわち皆さまの会社の工場まで輸送するコストを考えると、容器にできるだけ多くの数量の部品を入れたいと考える。可能であれば容器を大型化し、可能な限り多くの数を入れたいとも考えるだろう。結果的に協力サプライヤーの物流コストが下がり、工場の調達コストが改善されることにもつながる。
一方で、この荷姿を受け取ったユーザーの生産ラインは取り出しにくさや大型容器使用に伴う歩行発生で生産性に悪影響が生じる。では、ユーザーの生産ライン起点の発想で一貫荷姿を作ったらどうなるだろうか。
すると、恐らくは容器の中がスカスカの、極めて充填(じゅうてん)率が低い荷姿になることだろう。これでは輸送効率を低下させ、物流コスト上昇につながることが目に見えている。ということで、多くの会社ではサプライヤー側とユーザー側のニーズの折衷案でできた一貫荷姿を採用している。ユーザーの生産ラインでもそこそこの使いやすさ、輸送においてもまあまあの積載効率となる荷姿である。
これは、お互いロスを抱えたままの中途半端な荷姿である。もし、とことん物流改善するのであれば、このような中途半端な荷姿は作るべきではない。輸送には輸送に適した充填率重視の荷姿を、生産ラインには取り出しやすさを考慮した荷姿を作るべきである。
つまり一貫荷姿という発想は一度疑ってみる必要がありそうだ。
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